坂本不参加の旅行
学生時代、所属していたサークルで旅行した時の話。
交流を深めるために毎年夏と冬にサークル旅行が実施されていた。もちろん参加は自由なのだが、大所帯のサークルだったにも関わらず、毎回ほとんどの部員が参加していた。
金ないからパス。
その夏のサークル旅行、幹事が参加者を確認する場で坂本が残念そうに言った。数人の後輩がホッと安堵していたのを私は見逃さなかったが、怖がりの子ばっかりだったので致し方ないと思って見逃がしてやったのを覚えている。
特筆すべきこともなく準備は進み、いよいよサークル旅行の出発日となった。
出遅れ
次の目的地は×××なんですけど、カーナビによっては表示されないことがあるので、その時は△△△っていう近くの施設名を入力してください。目的地の隣にある施設なのですぐにわかると思います。
1日目の最終観光地と注意事項が幹事から説明された。全員参加の旅行ではないが人数はかなり多く、レンタカーを数台借りるためカーナビが不揃いなのはご愛敬。説明にあったように、古いカーナビだと目的地が上手く表示されないことなどこれまでもあったため、ある意味慣れっこだった。
運転お願いします!
車ごとの運転手は固定だったが、乗車メンバーは休憩のたびにくじ引きで変えるシステム。新たな同乗メンバーと共に運転手に声をかけた。その時に乗る車の運転手はK先輩だった。
こっちこそよろしくね! 視世くん、カーナビの設定お願いしていい?
了解です。
助手席に乗り込んだ私はカーナビを操作する。
×××っと……。あれ、出ませんね。
あ~、このカーナビ古いバージョンなんだね。
△△△で検索しますね。
幹事からの注意事項にあった、隣にある施設の名称を入力。問題なく表示されたが入力にやや時間がかかったため、他の車はみな出発していた。
違和感
……この道、ホントに合ってるの?
出発して約15分、K先輩が不安げに言った。
俺もおかしいって思ったんですけど、カーナビの指示通りの道ではあるんですよね……
車は狭い山道を走行していた。軽自動車同士ならギリギリすれ違うことができるかな、ぐらいの狭い道。目的地は名の知れた観光地だったので、そんな場所を通るのはおかしいと感じていたのだ。他の同乗者にも地理に明るい者はおらず、古いバージョンのカーナビだから旧道で案内してるのだろうと一応の結論付けをした。
しかしそれから少し走っても山の中を進むばかりで、開けた場所に出る予感はなかった。
引き返します?
そうしたいんだけど、この道幅じゃねぇ……。Uターンできそうなとこがあったら引き返そうか。
しかし引き返すと決めたものの、なかなかUターンできそうな場所がなく、直進するしかなかった。
絶対この先に×××ってないですよね……
後部座席からも不安の声が聞えてくるのも当然で、道はおざなりに舗装されている程度で、森はさらに深くなるのだった。
恐怖の始まり
この先、目的地です。
直進表示を続けていたカーナビが急に音声案内を開始したため、全員が声を上げて驚いた。
は? 絶対目的地じゃないだろ。
思わず声に出してしまったが、ほぼ同時にK先輩が大きめの声で被せてきた。
あそこ! ちょっと開けてるよ!
喜々として言う先輩だったが、その顔がすぐに凍り付いた。
何よここ……
私達の前に現れたのは、風化した鳥居がある古びた神社だった。
うわっ……
同乗者も口々に恐怖を露わにしていると、カーナビの機械質な声が鳴った。
目的地に到着しました。音声案内を終了します。
大体のカーナビは、目的地に着くと音声案内を終了するだろう。
しかしここでさらなる変事が起こったのだ。
ブツッ
なんと、カーナビの電源が落ちたのだ。音声案内を終了するのはわかるが、周辺地図は表示され続けるはずだ。実際、これまでの道中もそうだった。
あまりの恐怖に全員が取り乱した。
視世くんが乗ってるからだよ!
パニックになったK先輩はついに泣きだし、私に八つ当たりを始める始末。他のメンバーもつられて泣いたり喚いたりと、恐怖で混沌としていた。
とりあえず戻りましょう!
泣き崩れたK先輩と運転を代わり、携帯電話で調べ直して本来の目的地を目指した。車内は無言になり、悪路を走行する音だけがガタガタと響いていた。
到着と後味の悪さ
えらく遅かったですね……って、なんで視世が運転してんの?
かなり遅れて目的地に到着。途中で一報入れていたため、幹事が駐車場で待っていてくれた。
説明するけど、先にみんなを降ろしていいかな?
憔悴しきった同乗者達を先に行かせ、1人残った私は幹事に事情を説明した。
そんなことがあったのか……
私に少しだけ霊感があることや坂本と懇意にしていることを知っていた彼は、疑うことなく事情を理解してくれた。
雰囲気悪くなると思うからさ、次のメンバー替えのクジ、ちょっと裏工作して今一緒に来たメンバーと被らないようにしてくんない?
私はまったく悪くないのだが、一緒だったメンバーの恐怖も理解できるため、これ以上恐怖心を煽るのは得策ではないと考えた。
その後、オカルトに理解ある数名の部員に事情を話し裏工作を開始。あらかじめそのメンバーで同じ車番のクジを握っておき、さも引いたかのように装うという簡単かつバレにくい工作だった。
観光と記念撮影を終えると、ホテルまでの乗車メンバーを決めるクジ引きが始まる。案の定さきほどの乗車メンバーは私と同じ車になるのを恐れていたようだったが、裏工作のおかげで同じ車になることはない。無事にメンバー替えが終わり、ホテルへと出発した。
真実は闇の中
あの現象が何だったのか、10年以上経った今でもわかっていない。カーナビの故障で済ませたいのだが、ピンポイントに神社に案内する不具合はそれはそれで恐怖だ。
到着した神社も、古びてはいたが曰く付きだったりする場所ではなかった。名前は明かさないが、調べればインターネットで普通に出てくる神社だった。
微弱といえども確かに存在する私の霊感に反応したのか? 真実はすべて闇の中である。
あとこれは完全に余談なのだが、運転手だった先輩を含む乗車メンバーが夜の宴会の時に私の席にやってきて
視世くんのせいにしてごめん!
一緒になって責めてゴメン!
と謝罪してくれたので、それからは普通に楽しい旅行となった。恐かったけど。
コメント