世の中には数多くの霊感チェックが存在する。
ネットで検索すれば、「不思議で怖い心理テスト」といった名目で、数えきれないほどのサイトがヒットするようになった。
中でも有名なのが、「目を閉じて家の中を想像する」という類のものだ。
しかし、こういったテストは「これは霊感の有無を測るものだ」という先入観を持って行うと、途端に信憑性が薄れてしまう。
怖がりな人間は霊がいないと思い込むために嘘をつくかもしれないし、目立ちたがり屋はあえて視えたフリをするケースもある。
では、もし「それが霊感チェックだとは知らずに」本物の霊能者がこのテストを行ったら、一体どうなると思うだろうか?
これはまだ例のテストがネットで有名になる前、大学生だった頃に体験した洒落にならない怖い話、実話である。
ある日のサークルの部室でのこと。
心理学を専攻している後輩が、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「視世先輩、心理テストやりません?」
私は占いや心理テストの類が大好きなので、何も考えずに「いいよー」と能天気に承諾。
すでにテスト済みだったのだろう、周りにいる他の後輩たちも興味深そうにこちらの様子を伺っていた。
後輩が提示したルールは、以下の通りだ。
①目を閉じて、自分の家の玄関の前に立っている姿を想像する。
②玄関のドアを開けて家の中に入る。
③家の中にあるすべての窓を開けて回る。
④全部の窓を開けたら、一度玄関に戻る。
⑤今度は、開けた窓をすべて閉めて回る。
⑥再び玄関に戻ったら、目を開ける。
つまり「目をつぶって家を想像し、家の全部の窓を開ける」という作業を頭の中で行い、終わったら一度玄関に戻ってくる。
今度は開けた窓をすべて閉めて回り、再び玄関に戻ってきたら目を開けるという、若干のストーリー性がある手順となっていた。
「わかりましたか? それじゃあ、スタートしてください」
言われた通りに目を閉じ、実家の玄関を思い浮かべる。
住んでいたのはさほど広い家ではなかったので、脳内で家の窓を開け閉めして戻ってくる工程はすぐに完了した。
「終わったよ」
目を開けてそう告げると、後輩はすぐさま核心を突く質問を投げかけてきたのである。
「家の中を歩いている最中、誰かいたり、すれ違ったりしませんでしたか?」
そこで私は、素直な感想を口にした。
「誰かいたってわけじゃないけど……階段を上がった時に、スッと黒い影とすれ違ったな」
それは嘘や冗談ではなく、紛れもない事実だった。
脳裏に浮かんだ実家の階段で、確かに得体の知れない影とすれ違ったのだ。
返答を聞いた後輩達は、「マジかよ……」「やっぱり……」と口々に囁きあっていた。
出題者である後輩自身も、若干引いているように見える。
「これ、何のテストなの?」
あまりにも様子がおかしいので尋ねてみると、後輩は観念したように白状した。
「……霊感の有無を測るテストです」
心理テストなどではなく、「霊感テスト 家の中」編とでも呼ぶべきチェックだったわけだ。
後輩いわく、「家の中を想像して知らない人」がいたり影とすれ違ったりした場合、その人物は霊感がある可能性が高いのだという。
あるいは、家のその場所に実際に霊が棲みついているという見解もあるらしい。
幼少期から心霊体験をすることが多かったため、「やっぱりな」と妙に納得してしまった。
ここでの結果は多少場をざわつかせる程度で終わったのだが、本当の恐怖はここから始まる。
「心理テストか、おもしろそうだな!」
先ほどの結果を聞いて食いついてきたのが、同級生の坂本だ。
彼こそが、歩く心霊スポットと呼べるほどの霊感の塊のような男。
すでに霊感があることは周知の事実なので、改めてテストをする必要などない。
しかし、後輩に懇願され、坂本もこのテストをやることになってしまったのである。
やめておけばいいのに、と内心で毒づく。
坂本は、これが霊感テストだとは夢にも思っていないはずだ。
目を閉じて素直に後輩の指示に従い、想像の中で家中の窓を開け閉めし始めたであろう彼を、私はハラハラしながら見守った。
しばらくして彼がゆっくりと目を開ける。
「終わったよ」
ここで後輩に対し、ある提案を挟んでみた。
先ほどの「誰かいましたか?」という聞き方では、誰かがいるかもしれないという先入観を与えてしまう可能性が高い。
そこで、質問の角度を少し変えることにしたのだ。
「家に、何かおかしなところはありませんでしたか?」
何も知らない坂本は、あっけらかんとした口調で答えた。
「家に変なとこはなかったけど……風呂場とトイレ、あと階段と2階の部屋に『知らない人』がいたな」
部室の空気が一瞬にして凍りつく。
しかし坂本は周囲の反応など一切気にせず、平然と続けた。
「顔まではよくわからなかったけどな。あとさ、途中間違えて押し入れの襖まで開けちゃったんだけど……」
そして彼は、とんでもないことを笑いながら口走った。
「開けた瞬間に、日本人形みたいなのがボトッて落ちてきてビックリしたよ。さすが俺、想像力が豊かなんだなー」
「先輩、もういいです……」
ケラケラと笑う坂本に、真っ青な顔をした後輩が慌ててストップをかける。
そこでようやく、今やったのが心理テストではなく霊感チェックテストだったことをネタばらししたのだ。
「へぇ~」と感心したように頷く坂本は、こちらを見てニヤリと笑う。
「視世はわかるよな?」
その言葉に、黙って頷くしかなかった。
坂本が「知らない人がいた」と証言した場所は、風呂場、トイレ、階段、そして2階の部屋である。
そこは、彼が住む家で実際に恐ろしい怪奇現象が起こった場所と完全に一致しているのだ。
未だに坂本の脳裏によぎるということは、それらは移動することも成仏することもなく、ずっと「そこ」に留まり続けているということなのだろう。
もし、あなたがこのテストを試すなら、しっかりと覚悟を決めてからにしてほしい。
遊び半分でやってしまって、もしも「家の中を想像して知らない人」が紛れ込んでいたら……?
それを視てしまったら、決してあなたの想像力が作り出した幻などではなく、今まさに背後に立っている、望まぬ同居人なのかもしれないのだ。


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