【怖い話23】シミュラクラ現象

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シミュラクラ現象

人間(ヒト)の目には3つの点が集まった図形を人の顔と見るようにプログラムされている、という脳の働きである。和訳は類像現象。「シミュラクラ」という言葉は、「人や物を表現または模写した物」(似姿)を意味する英語の”simulacrum(英語版)”(シミュラクム)の複数形の”simulacra”に由来する。”simulacrum”はラテン語で「似ている物」の意味である。

Wikipediaより引用

雑談より

 学生時代のある日、同じクラスのYちゃんに話したことがあった。

視世陽木
視世陽木

シミュラクラ現象って知ってる?

Yちゃん
Yちゃん

知らない。何それ?

視世陽木
視世陽木

模様とかシミとか、3つの点が近くにあると人間の顔に見えることない?

Yちゃん
Yちゃん

あ~、あるわね。

視世陽木
視世陽木

その顔に見えちゃう現象がシュミラクラ現象。人間の脳がそう見えるようにプログラムされてるんだって。

 得意げに語る私に、盛大にため息をつくYちゃん。

Yちゃん
Yちゃん

その頭の良さを真面目に勉学に生かそうとは思わないの?

 学生時代はこんな風によく呆れられていた。

 なぜこのような書き出しかというと、つい先日、Yちゃんから久しぶりに連絡が来たからだ。

 しかし、久しぶりの連絡の内容は決して昔日の思い出を温かく懐かしむ始まりではなかった。

Yちゃん
Yちゃん

ねぇ、オカルト的なこと詳しかったよね?

久々の連絡

 あまりにも唐突なメッセージに返事を察知。

視世陽木
視世陽木

多少ね。何かあったの?

 すぐに返信すると、彼女からの返事はメッセージではなく電話だった。

Yちゃん
Yちゃん

学生時代に教えてくれた、 点が3つ集まったら顔に見えるって話覚えてる?

 久しぶりの連絡にも関わらず、完全に挨拶を省いて話し出すYちゃん。

視世陽木
視世陽木

シミュラクラ現象のこと?

Yちゃん
Yちゃん

そう! それよ!

 日常生活でまず使うことのない言葉なので、知っている人の方が少ないだろう。

視世陽木
視世陽木

シミュラクラ現象がどうかしたの?

Yちゃん
Yちゃん

この前友達の家に泊まったんだけどさ、そこで視ちゃったのよ……

視世陽木
視世陽木

顔に見える模様を?

Yちゃん
Yちゃん

私も最初はそう思ってたんだけど……

 普段の明るさを微塵も感じさせない声で、ポツリポツリと話しだした。

寝起きは鈍感で敏感

 Yちゃんの友人が住んでいるのは築30年以上の古いアパート。事故物件だから家賃が安いわけではなく、築年数からくる安さだと事前に確認したという。

 2人とも翌日が休みだったので、友人宅で宅飲みをすることになった。

Yちゃん
Yちゃん

この前も課長がさぁ……

友人
友人

あの先輩がね!

 仕事の愚痴がメインの飲み会。管を巻いているうちに飲みすぎてしまった2人は、知らないうちに眠ってしまったらしい。

Yちゃん
Yちゃん

気持ち悪ぅ……

 どれくらい眠っていたのだろうか、吐き気を感じて目を覚ましたYちゃん。少し空が白み始めていたのか、部屋は薄暗い程度。ベッドにもいかず隣でスヤスヤと眠っている友人の顔が見えた。

Yちゃん
Yちゃん

ん?

 少し覚醒すると、熟睡する友人の後ろの壁、特に壁紙が何となく気になったという。寝たままの格好でぼんやりと見上げた、高さでいうなら自分達の背丈ぐらいの場所に目を引き寄せられた。

 少し黄ばんだ壁紙を凝視すると、そこに小さな人の顔のようなものが視えた

Yちゃん
Yちゃん

ヒィッ……!

 元々怖がりなYちゃんは一瞬息を飲んだのだが、深呼吸をしてすぐに心を落ち着けた。

Yちゃん
Yちゃん

学生時代に視世くんが言ってたやつじゃない? 点が3つあったら顔に見えちゃうってやつ。何とか現象、えっと何だったっけ?

 私との会話を思い出しながら、吐き気を堪えながらトイレに向かう。部屋に戻った時にはシミュラクラ現象のことを何となく思い出して安心していたため、特に何を考えるでもなく二度寝した。

何気ない日常

Yちゃん
Yちゃん

次に目覚めたらもうお昼ぐらいだったの。

 友人は先に起床しており、台所で軽い食事を準備してくれていた。挨拶を交わしながらその光景を見ていると、Yさんは朝方トイレに起きた時のことを思い出した。

Yちゃん
Yちゃん

1回起きた時のことが気になったから、部屋中の壁紙を見回してみたんだけど……

視世陽木
視世陽木

だけど?

Yちゃん
Yちゃん

どこにもシミなんてなかったの……

 全体的に薄く黄ばんでいる壁紙は記憶のままだったが、顔に見えるようなシミが3つもある箇所はなかったという。

視世陽木
視世陽木

記憶違いとかではないんでしょ?

Yちゃん
Yちゃん

うん、それはない。確かにお酒は残ってたけどしっかり見たし、そうじゃなきゃこんな連絡しないわよ。

 恐怖体験をした時しか連絡をくれないのも寂しい気はしたが、そんなことを言ってもしょうがない。

Yちゃん
Yちゃん

しかもね、それだけじゃないの。

視世陽木
視世陽木

他にも何かあったの?

 怖い体験をしたものの、友人が住んでる家なので変に不安がらせるのもどうかと思い、その出来事のことは黙っていたYちゃん。

Yちゃん
Yちゃん

友達が準備してくれたご飯を食べながら、お互いにお互いの写真をスマホで撮り合ったりして、ふざけて遊んでたのよ。

 飲んだお酒の空き缶や準備された食事、お互いの食事風景などを撮り合いして楽しんでいた。

 しかし、さらなる恐怖がYちゃんを襲う。

Yちゃん
Yちゃん

食器を持って立ち上がった友達を写真に撮ろうとした時、スマホが反応しちゃったの……

視世陽木
視世陽木

反応? 何に?

Yちゃん
Yちゃん

最初は友達に顔認証の枠が反応してたんだけど、その枠がいきなり別の場所に飛んじゃったの……

視世陽木
視世陽木

もしかして……?

Yちゃん
Yちゃん

……私が朝方シミを視た場所に顔認証の枠が飛んでいって、そっから動かなくなったの。

 ポスターやテレビの画面に顔認証が反応するという話は聞いたことがあるが、何もない壁紙に反応するというのは聞いたことがなかった。

Yちゃん
Yちゃん

怖くなって急いでカメラをオフにしたわ。

 恐怖心を抑え勇気を出して壁を見てみたが、やはりシミなどなかったという。

視世陽木
視世陽木

悪いね、何のアドバイスも解決もできなくて。

Yちゃん
Yちゃん

聞いてくれるだけでいいのよ。こんな話、誰にでもできるわけじゃないし。

 優しくそう言ってYちゃんは電話を切った。

良いことばかりではない

 飲みすぎてありもしないものを見てしまった、と言うにはあまりに鮮明な記憶。かといって、シミュラクラ現象だと断言できるシミはない。

 もし彼女の友人が借りていたのが事故物件だったら、「そういうアパートだからしょうがないんじゃない?」と、今後近寄らないようアドバイスすることができただろう。

 あの夜、彼女もしくは友人に、もしくは友人の部屋に何が起きたのかはわからずじまいだ。こういった怖い話を聞くと、技術が進歩しすぎるのもいかがなものかと思ってしまう。

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