普通に怖い
学生時代、私は教育学部だった。
学校教育に携わるだけあって、教育学部は教科ごとにコースが細分化されていた。小学校教諭のようにすべての教科を万遍なく履修するコースもあれば、中学校や高校の教諭のような特定の教科に特化したコースもある。
その中に ” 美術コース ” という美術教科の免許状を取得するためのコースがあったのだが、問題は美術コースの学生が作った石膏像だった。
石膏像・・・デッサンなどに用いられる石膏を用いて作られた像。
この石膏像、胸像でもそこそこの大きさがあるため、毎年保管場所についての問題が発生する。
美術倉庫で保管するのも限界があるが、学生に持ち帰らせても置き場所や処理に困る。かといって学生が頑張って作ったものを壊して処分するのも気の毒だった。
そういった諸々の事情があり、教育学部校舎の至る所にオブジェとして配置されていた。
廊下や階段のコーナー、各講義室の空きスペース等、一応は邪魔にならない場所を選んで配置したつもりだったのだろうが、残念ながら邪魔だった。
しかし、邪魔なこと以外にも問題があった。
ぶっちゃけ怖いのだ。
明るいうちはまだいいが、夜中の廊下に佇む石膏像は恐怖でしかない。
教育学部は、夜でも学生が校舎にいるのは珍しくなかったからなおさらだ。テスト期間中は夜遅くまで残って勉強する人も多いし、教員採用試験や卒論制作などの時期になると夜中でもかなりの学生が校舎に残っていた。
当時の廊下の照明は旧式のオンオフタイプだったため、下手したら月明かりに照らされて佇む石膏像が待ち受けていたのだ。
休憩がてらトイレに行ったらビビった! あるとわかってても怖いんだよな……
学部内でこんな話はしょっちゅうだったが、被害は学部内に留まらない。
教育学部棟に配置されてる像、夜めちゃくちゃ怖いんですけど!
石膏像のことなのだが、配置されている場所によっては外からも見えてしまうのだ。
大学の敷地を通るとショートカットになることが多いので、大学関係者以外でも通行人が多い。もちろん夜は人通りなどほとんどないのだが、バイト帰りだったり遊び帰りの学生が、その道中で目撃して恐怖してしまう、なんてこともざらだった。
怖すぎるんで撤去してください!
怖がりな学生からの要望が学務課に入ることも多かったが、先に述べたように収納場所がないことと、そもそも夜に学部棟を開放しているのは厚意からであり、不平を述べるのはどうなのか?という観点から、要望が受け入れられることはなかった。
そして私が大学3年生になった時、ひっそりと恐怖の出来事が起こってしまう。
目撃者
ある日サークルの部室で小規模な飲み会をしていると、何となく怖い話をする流れになった。
そして話の合間に石膏像についての愚痴が漏れた。
教育学部棟の石膏像、やっぱり夜は怖いですよね。
わかる! 外灯の光とか月明かりとかで照らされてたりして怖いよね!
怖がりながら話す後輩達の会話をニヤニヤしながら聞いていたのだが、ある1人の発言が私を凍り付かせた。
昨日の夜も見ちゃったんだけどさ、3階にある頭だけの像、あれが1番怖くない!?
その発言に他の後輩達も「わかる!」「4階の胸像の方が不気味じゃね?」などと盛り上がっていたが、私はそれどころではなかった。
後輩が言った「3階に置かれてる頭だけの像」は、飲み会前日の昼間に学生が台から落として割ってしまい撤去されていたのだ。
片付けの際に台ごと一時撤去され、まだ次のオブジェが配置されてなかったことを私は確認していた。
時間経過 | 詳細 |
飲み会前日 (昼) | ・学生が3階廊下にてふざけ合い、台にぶつかり転落した石膏像が破損。 → 台ごと撤去される。 |
飲み会前日 (夜) | ・後輩の女の子が3階廊下に月明かりに照らされた石膏像を目撃。 → 代わりの像などは設置されていなかったはず…… |
飲み会当日 (夕方) | ・3階廊下にはいまだ代わりの像は設置されておらず。 |
飲み会当日 (夜) | ・後輩の女の子から3階廊下の石膏像目撃談が飛び出す。 |
次のオブジェが配置されていなかったため、昨日の夜は石膏像はなかったはずである。
彼女は一体何を視てしまったのだろう?
怖がりながらも楽し気に話して盛り上がっている後輩達に、真実を伝えることはできなかった。
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