【怖い話1】不思議な女①
学生時代はバイク通学をしていたが、大学入学からバイクが納車されるまでの少しの間、バス通学をしていたことがある。
すべての恐怖はこのバイク通学から始まった。
バス通学1日目、自宅近くの停留所でバスに乗車。
昼前のゆっくりした時間だったため、車内はがらがら。席に余裕があったので、贅沢にも2人掛けの席に座ることにした。
車窓の外をぼんやり見ていると次の停留所が見えてくる。
停留所には数人が待機していたが、座席が埋まるような人数ではなかった。

キレイな人がいるな
そんな俗っぽいことを考えているうちにバスは停車し、ガヤガヤと乗客が乗り込んでくる。
乗降客の喧騒には目もくれず、引き続きぼんやり外を眺めていたが、思わず隣を振り返ることとなった。
なぜなら、まだ席には余裕があるのに隣に座ってくる人がいたからだ。
2人掛けの座席に1人で座っているから、隣に誰かが座ることはあるだろう。
しかし車内には空席も多く、1人掛け用の席だって空いていた。
そんな状況でわざわざ隣に座ってくるだろうか?
ましてや隣に座ったきたのは「綺麗な人がいるな」と思いながら見ていた女性。
なおさら男性の隣は避けるものではないだろうか?
知り合いかと思ったが、まったく見覚えのない人だった。

まあいっか……
奇妙さは拭えなかったが、席を詰めてはいけないという決まりがあるわけでもない。
知り合いでもないし、話しかけてくるわけでもないので放っておくことにした。
何事もなく大学前の停留所に到着し、「前をすみません」と言って女性の前を通り下車する。
後に続いて降りてくるようなこともなく、女性はただただ行儀よく座っているだけだった。
連続する奇行と終わり

またいるよ……
次の日もその次の日もそのまた次の日も、女性はバスを待っていて必ず隣に座ってきた。
当時は私も若かったので、初めは「もしかしたら俺に気があるのかな?」なんて素敵な勘違いをしていた。
しかしそれにしては話しかけてくるわけでもなく、こちらを見ようともしない。
ただただ行儀よく座り、真っすぐ前を見ているだけなのだ。

怖い……
どんなに美人だろうが、こんな奇行が続けば恐怖でしかない。
2人掛け用の座席にいれば隣に座ってくるし、1人掛け用の席に座っているとすぐ隣に立つ。
吊革を持って立っていても、これまた隣に立つのだった。
こちらから「なんでいつも隣にくるんですか?」と聞くのも違うと思い、かといって無関心でいるのも限界だった。
さらに私を恐怖させたのは、帰りのバスでは絶対に一緒にならないということ。
私の帰宅時間もバラバラだったし女性にも事情はあるだろうが、同じ路線を利用しているなら1度ぐらいは帰りに乗り合わせてもおかしくないはずだ。
しかし、恐怖の日々もついに終わりを迎える。

原付がきてる!
ある日帰宅すると、自宅の駐車場に原付が停まっているのを発見し、思わず声が出た。
本来なら「やっと原付がきた!」という喜びのはずだったのに、この時は「恐怖のバス通学が終わる!」と安堵していた。
後日談
バイク通学を始めてすぐ、奇妙なことに気づいてしまった。

今日もいないな……
あれだけ毎日隣に座ってきたのに、原付で停留所前を通る時には女性の姿がないのだ。
様々な時間帯で注意深く観察したが、ついに1度も見かけることはなかった。
そもそもが不思議な話だ。
大学生の時間割りは曜日によって違う。
朝イチから講義の日もあれば、昼からゆっくり通学することもある。
それなのに、彼女は必ず私が乗るバスを待っていた。
しかしそんな彼女が、バイク通学を始めてからはパッタリと姿を見せなくなった。
あまりの奇妙さに様々な考察をし、可能性は低いだろうが考えついたことがある。
それは、始発の便からずっと私が乗ってくる便を待っているという可能性。
もしこの考察が正解だったとしたら、私の乗車の有無を確認して乗るかどうか決めればいい。
しかしある日、その可能性も完全になくなった。
夜通し遊んで朝帰りになった日、始発バスが通る時間に停留所の前を通った。
そこにも彼女の姿はなかった。
コメント