【怖い話41】あの日の真実

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心霊系の怖い話

偶然の再会

視世陽木
視世陽木

あれっ?
もしかしてKくんじゃない?

 数年前、とあるショッピングモールにて、私は偶然の再会を果たしていた。

Kくん
Kくん

あっ、視世さん……

 逃げ出しはしなかったが、声をかけた相手は非常に気まずそうな顔をした。

視世陽木
視世陽木

あぁ、責めたりするわけじゃないから安心してよ。

Kくん
Kくん

その節はご迷惑をおかけして……

視世陽木
視世陽木

だからいいってば!

俺もあのホテル辞めてるし!

私の言葉にホッとするKくん。

しかし昔のことを思い出してしまった私は、「時間あるなら、あの時の話を聞かせてくれない?」とKくんに交渉した。

Kくん
Kくん

は、はぁ……

やはり完全に後ろめたさを拭うことはできなかったのだろう、渋々といった感じでKくんは了承した。

この時Kくんが気まずそうにしていたのには、もちろん理由がある。

関係性

 Kくんとは同じホテルで働いたことがあった。

私もKくんも派遣社員で、同じ部署でしかも同郷だということもあり、すぐに仲良くなった。

 しかしある日、Kくんが無断欠勤をしたのだ。

Kくんは仕事に真面目なタイプだったので、無断欠勤はおろか遅刻すらしたことがない。

前日までは何事もなく働いていたため、まさに青天の霹靂。

支配人と一緒に派遣社員用の寮のKくんの部屋に向かったが、もぬけの殻だった。

 もちろん連絡が繋がることはなく、派遣会社に確認しても「申し訳ございません。私どもも連絡を取っているのですが、電話に出ませんで……」と、平謝りするばかり。

だが悲しいかな、そのホテルでは珍しいことではなかった。

「思っていたより忙しかった」
「思ってたより朝が早かった」
「想像以上に田舎で楽しくなかった」

 そんな理由で夜逃げする派遣社員が多かったのである。

Kくんも、仕事の多忙さに耐えきれずに逃げていった1人だと思っていた。

語られる過去

 Kくんに告げたように、すでに私もホテルを退職していたので、数年経ってなおKくんを責めるつもりはなかった。

しかし逃げ出したという負い目があるからだろうか、Kくんは異常にオドオドしていた

視世陽木
視世陽木

元気そうでよかったよ。

 緊張をほぐすため、まずは世間話から入った。

しばらくは互いの現状などを話し合い、そのうちKくんの緊張もほぐれたようだった。

するとすぐに、私が切り出すよりも先に、Kくんから当時の話を始めてくれた。

Kくん
Kくん

ホントに今さらですけど、急に逃げ出してすみませんでした……

視世陽木
視世陽木

いや、今さらだから何とも思ってないけど、何があったの?

Kくん
Kくん

当時も視世さんには相談しようと思ってたんですけど、どうしてもあの日に逃げ出さないとヤバかったんで……

視世陽木
視世陽木

そんなに仕事キツかった?

それとも嫌な人がいたとか?

 当時を振り返ると、派遣社員同士は仲が良かったものの、正社員の中には性格がキツい人や派遣社員を見下している人もいたため、働きにくい環境だったように思える。

 私は派遣歴が長く、自分で言うのも何だが仕事がデキる方だったので、正社員から可愛がられていた。

しかし、来たばかりの派遣社員や少し仕事に疎い派遣社員は、正社員からの当たりが強かったりもした。

 そんな裏事情を思い出して言ったのだが、Kくんは首を横に振った。

Kくん
Kくん

違うんです、そんなんじゃなくて……

彼が逃げたあの日の真実が、数年越しに明らかになろうとしていた。

ホテルの噂

Kくん
Kくん

視世さんも、あのホテルの噂は聞いてましたよね?

視世陽木
視世陽木

もちろんだよ。

 いくら年月が経とうが忘れられない話だ。

ここまで読んでいただいて、何となくブラック企業っぽいホテルだと察していただけたと思えるが、内部事情に詳しければ詳しいほど、ブラックさを噛みしめることとなる。

 私達が勤務していたホテルが、ブラック企業だと囁かれていた最たる噂話。

それは、ホテル建設に関わった地元の小さな工務店の社長がホテルの裏山で首を吊って亡くなった、という話。

ぽつりぽつりと仕事を取ることで何とか存続しているような工務店だったが、当時の会長から値切りに値切られ、ついには赤字覚悟になるまで値切られてしまったのだという。
 
もちろん「この金額じゃウチがやっていけません!」と抗議したそうだが、当時ぐんぐん成長していた企業だということで調子に乗っていた会長が、「ウチの仕事を断ったら、他でも仕事できなくなるかもよ?」と、暗に脅しをかけたのだとか。

視世陽木
視世陽木

真偽の程は定かじゃないけどな。

 先輩スタッフから聞いた話を回顧しながら言ったが、Kくんは再び首を横に振った。

Kくん
Kくん

いえ、その噂、多分ホントなんだと思います……

 彼の言葉には確信めいたものが秘められていた。

Kくん
Kくん

俺達が住んでた寮の裏で首を吊ったって噂だったじゃないですか。

視世陽木
視世陽木

確かそんな話だったな。

 派遣社員用の寮はホテルの敷地の最奥にあり、1室1室は寝起きするだけの狭いスペースの長屋造りだった。

寮の裏手はすぐ山だったのだが、その山で会長への恨みの声を叫びながら首を吊ったのだと聞いていた。

Kくん
Kくん

実は俺、聴いてたんですよ……

視世陽木
視世陽木

聴いてた?

私がオウム返しすると、Kくんは力強く頷いた。

Kくん
Kくん

ホテルに派遣されて寮に入ってからすぐ、夜中に嫌な気配を感じるようになったんです。

 ここで思い出したのだが、そういえばKくん、多少霊感があると言っていた気がする。

Kくん
Kくん

別に危害を加えられるわけじゃなかったんで、気になりながらも放っておきました。

しかしある日、風もないのに木々が激しく揺れる音が聴こえたり、人の気配を感じたり、ブツブツと呟くような声が聴こえたりするようになった、とKくんは言った。

派遣社員用の寮は確かに壁が薄く、隣室の人の声や気配はほぼ筒抜けだったが、彼が感じたのはそういったものではなかったらしい。

Kくん
Kくん

明らかに裏山の方から感じたんです。
窓を開けてみたこともあったんですけど、誰もいませんでした。

 よく窓なんて開けれたなと、素直に感心したし呆れた。

もしもそこに人ならぬ何かがいたら、どうするつもりだったのだろうか?

Kくん
Kくん

その気配を感じているうちに、俺の霊感も研ぎ澄まされたんだと思います。

日に日に気配は濃くなり、音や声が少しずつ鮮明に聴こえるようになってしまったという。

 そしてついに、あの日を迎えてしまう

Kくんが夜逃げした日の、深夜の話だ。

Kくん
Kくん

その日の声は、それまでで1番ハッキリ聴こえたんです……

視世陽木
視世陽木

何て言ってたんだ?

 ゴクリと音が聞こえるほどハッキリ生唾を飲んだKくんは、小さな声で続けた。

Kくん
Kくん

俺の名前を呼んでたんですよ……

視世陽木
視世陽木

えっ!?

マジかよ!?

Kくん
Kくん

間違いありません。
俺の名前を呼びながら、「呪ってやる」って延々と呟いてたんです……

 裏山から感じる人ならぬ者が、Kくんの名前を呼びながら怨嗟の念を撒き散らしていたのだという。

Kくん
Kくん

しかもその後、ドサッていう何か重い物が落ちる音が聴こえました。

 Kくんの証言に、一気に背筋が凍り付いた。

視世陽木
視世陽木

もしかして……?

Kくん
Kくん

たぶんですけど、首を吊っていたロープが切れたんだと思います……

 少し余談となるが、首吊り死体が首を吊ったまま見つかるのは珍しいという。

発見が早ければ首を吊った状態で見つかることもあるが、多くは重みに耐えきれずに枝が折れたり、ロープが切れたり、日数が経っていると腐敗した部分が分断されたりして、下に落ちるのだという。

Kくん
Kくん

ドサッて音が聴こえてからも声は続いてて、少しずつ近づいてきてるみたいだったんです……

当時の恐怖を思い出したのか、Kくんは自身を抱きすくめており、私も全身に鳥肌が立っていた。

ホテルを飛び出す

Kくん
Kくん

あまりにも怖くて、俺は荷物をまとめてすぐにホテルを飛び出しました……

幸いKくんは私物らしい私物をほとんど持ち込んでいなかったため、洋服などの細々したものをバッグに詰めるだけで逃げる準備ができた。

Kくん
Kくん

ナイトフロントの人に「急用ができた!」と言って、タクシーを呼んでもらいました。

市街地まで降りた後はファミレスで朝まで時間を潰し、そのまま実家に帰ったという。

視世陽木
視世陽木

なるほどね……

 山の中腹にあるホテルだったので、徒歩を除けば深夜の交通手段はタクシーに限られる。

車やバイクの持ち込みは許可されていたが、Kくんは持ち込んでいなかったはずだ。

Kくん
Kくん

電話なり何なりして事情を説明して、陳謝すべきとは思ったんですけど……

 そこまで言って口を噤んだKくんに、私は深く頷いてやった。

視世陽木
視世陽木

気持ちはわかるよ。
どんなに説明しても信じてもらえないだろうからね。

 ましてやホテルの過去の不祥事にまつわる心霊現象である。

深く説明すればするほど反発されて、とても受け入れてはもらえなかっただろう。

知らぬが仏

 完全に暗い雰囲気になってしまったので、またしばらく世間話をしてKくんと別れた。

最後にペコリと礼をして帰っていった彼の顔は、憑き物が落ちたような、とても清々しい笑顔だった。

あの清々しい笑顔、やはり私は口を噤んでいて正解だったろう。

黒い噂が絶えなかった前会長と、Kくんの本名が同じだったということは。

Kくんはその事実は知らなかったのだろう。

あの夜の声は、Kくんを呼んでいたようで、実は前会長を呼んでいたはず。

知らぬが仏だ。

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