主要人物紹介
今回の話にも登場しますが、私が綴る怖い話に必要不可欠な人物を先に紹介します。
あまりにも強すぎる霊感を持つ『坂本』(仮名)です!
アイコンみたいにイケメンじゃないけど、よろしくお願いします。
私達の出会いについては、Amazon Kindle で電子書籍として出版している『霊感大学デビュー』に書かれています。
ブログで改めて綴ることはしないので、よろしければご購入の程よろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
サークルの部室
わたくし 視世陽木と、霊感が強すぎる友人の坂本は、学生時代に同じサークルに所属していた。
不真面目な学生であった私は、サークルの部室で1日中ダラダラ過ごすことが多く、寝泊まりするのも珍しくなかった。
しかし、部室を私物化していた私が1人で部室に長居しなくなり、宿泊しなくなった出来事があるので、今回はその話を書かせてもらおう。
学生時代のある日、いつものように部室で1人まったりと過ごしていた。
つい先程までは、後輩数名と小規模な飲み会で盛り上がっていたのだが、真面目な学生たる彼らは、明日の講義のためにと帰宅していった。
若干の寂しさを感じながら残ったお酒をチビチビ飲んでいると、来訪者の気配を感じた。
私がそれに気づいてしばらくすると、内開きのドアが無遠慮に開かれる。
もうみんな帰ったの?
ズカズカと部室に入ってきたのは坂本だった。
『後輩達と飲んでるけど来る?』というメールを送っていたので様子見に来たのだろう。
みんな朝イチで講義があるんだとさ。
ふ~ん。
俺は明日は全休だけど、お前は?
いつもどおりだよ。
自主休講ってわけな。
そんなくだらない話をしながら坂本は空いてる席に腰を下ろし、残っていたビールを勝手に開けて飲み始めた。
来訪者の影
鍵、閉めとけばよかったな……
深夜2時を過ぎた頃、不意に坂本が呟いた。
なんだよ? 別に鍵なんていつも閉めてねーだろ?
鍵の取り出しの手間を軽減するため、中に人がいる時に鍵をかけることはほとんどない。例外は、私が眠りにつく時にかける時ぐらいだったろう。
私の言葉など聞こえていない様子の坂本は部室のドアをジッと見つめていたが、薄手の磨りガラスがはめられた何の変哲もない内開きのドアに、特に変わった様子はない。
来た。
どうしたんだよ? と尋ねようとした時、不意に坂本が呟いた。
言葉を受けてドアを見てみると、磨りガラスにぼんやりと人影が浮かび上がっていた。
しかしどうってことはない、坂本が後から合流してきたように、アルバイトを終えた部員や別の場所で飲んでた部員が遊びに来たのだろう。
何の示し合わせもなく、夜中に暇をしている部員がふらっと集合することは珍しくなかった。
影の正体
ガラスに写る人影に、「さてさて、こんな時間に誰が遊びに来たんだろう?」と楽しみですらあった。
しかしその人影は、なかなか入室してこない。
ゆっくりと左右に小さくユラユラ揺れて、まるでこちらが注目しているのをわかっているかのように焦らしていた。
影の主の思惑通りか、焦れてしまった私が席を立って見にいこうとしたその時だった。
ガチャッ
とてもゆっくりとドアが開いた。
そして、開かれたドアの向こうには誰もいなかった。
えっ?
予想外の事態に呆然とする私をよそに、坂本は素早く立ち上がりドアへと走り寄った。
チッ、逃げやがった!
悔しそうに言ってドアを閉めた彼は、今度はしっかりと鍵を閉めた。
誰だった?
視えたか?
2つの声が重なる。
しばし返事を待つも、坂本は私の問いに答えるつもりがないようで、渋々こちらから答えた。
……視えなかった。
そっか……
それ以上は尋ねることができなかった。
私にはわかっていた。
わかっていたが、あえて「誰だった?」と聞くことで、頭に浮かんだ可能性を消してしまいたかった。
「誰かのいたずらだったよ」
気休めでもいいから、そんな言葉がほしかった。
後日の考察
部室のドアは内開きだった。
もしも外開きのドアだったなら、ドアノブをひねって開けると同時にしゃがんで、ガラスから姿を消して逃げてしまえば、「誰もいなかった」というイタズラが成立するだろう。
いや、内開きのドアでも可能なイタズラではある。
ドアノブをひねって絶妙な力加減でドアを押せば、かなりゆっくり開くだろうから、ドアが内側に向かってゆっくり開いている間に走り去ればいい。
しかし、そんな理屈的なことではなかったのだ。
実際にその場にいた私と坂本にしかわからない感覚的なことだが、その時のドアの開き方は、誰かがドアノブを握ってゆっくり開けている、そんな動きだった。
そして決定的なことが1つある。
部室の外はすぐ砂利道になっており、誰かやって来たら必ずジャリジャリと音が鳴る。
私が坂本の来訪をドアが開くより前に察知したのも、ジャリジャリと音が鳴ったからだった。
だが、先ほどの姿なき来訪者が訪れた際、音は一切鳴らなかった。
怖がりな私は音に敏感であるため、音が鳴ったなら気づかないはずがない。
霊感が強い坂本が私より先に来訪者に気づいたことも、否定したいなにかの存在を示していたのだろう。
音なく現れ、姿なく現れ、音なく去った深夜の来訪者。
飲みすぎて体験してしまった夢幻と思いたいと、とっくに酔いが醒めた頭で考えていた。
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