前置き
これから書くのは大学生の時に私が実際に体験した話だが、都市伝説等に似たような話がごまんとある。なので、オカルト好きな人なら1度はどこかで読んだことがあると思う。
しかし、まぎれもない実話である。
心霊的な内容が多いブログを書いているので、声高に「信じてくれ!」とは言えないが、おそらく世界中の至る所で起こっている現象なのだろう。そうでもなければ類似の話で溢れるわけがない。
帰り道
その日は坂本と友人(以下、Yくん)と3人で出かけていた。目的の買い物を果たした後は何をするわけでもなくぶらぶらと街を歩き回り、お店を冷やかしたり下らない話をしたりして楽しんでいた。
雑談の途中、異変を感じて口にしたのは私だった。
なぁ。前から歩いてくる女の人、様子がおかしくない?
変だな。
坂本がすぐに賛同したように、人通りのまばらな並木道でその女性はなぜか我々の目を引いた。
しかしYくんの言葉で事態は深刻さを増すことになった。
女の人なんていないじゃん
Yくんの言葉を受けもう1度通りを見るが、女性は間違いなくいる。人通りはまばらだがわずかに人気はある。俯きがちでまさにトボトボという擬音がピッタリな歩き姿の女性だ。
こっち側の人間じゃないみたいだ。
小声で私にだけ聞こえるように言う坂本。背筋に冷たいものが流れた。
Yくんはまったく霊感がなく、オカルト的なことが苦手でもあったため、私達2人は「ごめん、見間違いだった」と冗談話にしてごまかした。
訪れた恐怖の瞬間
私達は3人横並びで歩いており、いよいよ女性が横を通り過ぎる時が来た。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・何も起きなかった。
当然と言えば当然だが、横を通り過ぎて行っただけ。緊張していただけに若干の肩透かし感があったのは否めないが、典型的なホラー展開にならなかったことに安堵した。
振り返ることはせず、チラリと横を見る。隣の坂本はまだ警戒していたようだったが、私達は雑談を交えながら散策を続け、やがてそれぞれの帰路についた。
呼び出し
2人と別れてから数分後、携帯電話に着信が入った。発信者はついさっき別れたばかりの坂本で、「近くの○○公園に来い」と暗い声で言った。何の用事かはわからないが、声の調子が深刻そうだったので「わかった」とだけ言って指定された公園へ急いだ。
お前は視たよな?
公園で合流しての一言目がこれだ。悪い予感しかしない。電話に気づかないふりをして帰ればよかったと後悔した。
視たよ。暗い雰囲気の女性だったな。
彼がこんなことを言い出すのだから、間違いなく視てはいけないものだったのだろう。
じゃあ、聴こえたか?
いや、何も。
何を言わんとするか、その質問だけで察してしまうぐらいには怪奇な現象に慣れてしまっていた当時の私。質問に素直に答える。
そっか。霊感の違いか、それとも距離か……
霊感の違いは言わずもがな、距離の違いとは歩いていた時の並びのことだろう。
あんまり聞きたくないけどさ、何か聴こえたのか?
あぁ。通り過ぎる時に囁いたんだよ、あいつ。
何て言ったんだ?
自分がゴクリと唾を飲み込む音が妙に大きく耳に響いた。怖がる私の反応を期待するように、彼は少し高く整えた声で呟いた。
「あなた達、視えてるんでしょ?」ってな。
単数形ではなく複数形。
気づかれていたのだ、私達が視えていることが。
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