知られていた
私が揺り起こしてしまった記憶、それは中学生の頃の出来事だ。
中学生の頃、私は陸上部で走り高跳びの選手だった。
目を見張るほどの記録を残せていたわけではなかったが、走り高跳びという種目はそこまで競技人口が多い種目ではなく、私が住む県は全国的に見ると田舎県であったため、1番大きい大会でも20人前後の選手しかいなかった。
田舎ならではの事情もあり、県内の狭い輪の中では好成績を残すことができたため、走り高跳びに興味がある人であれば私のことを知っている人もいる、ぐらいの選手だった。
過去の一幕
その日は、県で開催される中では大きめの大会の日だった。
まもなく競技開始という時間、ウォーミングアップを終えた私の前にそっと人影が現れた。
「視世陽木さんですよね?」
話しかけてきたのは、にこやかな40代ぐらいの女性。
その後ろには、話しかけてきた女性の娘さんと思しきキレイな女性が佇んでいる。
「あっ、はい、そうですけど……?」
見たことない母娘だったが、他の陸上部員の親が応援に来ることも多かったので誰かの家族だろうと予測。
そうでなくとも、上位入賞者は地方新聞に名前が載ったり選手名鑑に名前が載ったりすることもあるので、名前を知られていることが多い。
こんな私でも、当時は他校の選手や顧問の先生から話しかけられたことがあったぐらいだ。
「応援してます、頑張ってくださいね!」
会話の内容的にも保護者っぽかったので、私は「ありがとうございます!」と返事。
するとその母娘は去っていった。
娘さんは母の後ろに隠れるだけで何も話さず、その母だけがニコニコしていたのを覚えている。
時間停止?
記憶を揺り起こした私は知らず身震いした。
「嘘だろ……⁉」
自分で自分の記憶を疑った。
「あれから何年経ってると思ってんだよ?」
最低でも5年、おそらくは7~8年は前の出来事のはず。
「あの女、なんで年を取ってないんだ⁉」
バスの中の女性と、母の後ろに隠れていた娘は、間違いなく同一人物だ。
それなのに、なぜあの女性は年を取っていないのか。
年の頃は20歳前半~半ば。
中学生だった私を母親の陰から見つめていたあの女性は、間違いなく成人してるであろう風貌だった。
しかし中学生時に見た姿と、大学を卒業しようとする私の前に現れた姿が、まったく一緒だったのだ。
最後に
これまでも何度かこの恐怖体験を話したり書いたりしてきたが、信じられないと言う人が圧倒的に多い。
それはそうだ。
私だって人からこんな話を聞いたら「ホントかよ?」と思ってしまう。
この話以外の怖い話もそうだが、私は万人に怖い話を信じてほしいわけではない。
しかし我々人間が生きている中で科学では説明できないことがある、そんなふわっとした緊張感は持っていただければと思う。
『不思議な女シリーズ』 終



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