【怖い話37】クローゼットの服

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心霊系の怖い話

気になる服

視世陽木
視世陽木

この服、どうしたの?

 坂本宅に遊びに行ったある日のこと、ハンガーラックに見たことない服が掛かっていた。

普通なら「買ったの?」と聞くところだろうが、坂本が好むデザインではなかったの気になったのだ。

坂本
坂本

何日か前に古着屋に行ったんだけどさ、何となく気になって買わされたんだよ。

 今思えば「買わされた」とは不思議な言い回しだが、当時の私は気づかずに話を進めてしまった。

視世陽木
視世陽木

着てるの?

坂本
坂本

いや、買ったはいいけど着ないんだよな。

 その服は私好みのデザインだったので、こんな提案をしてみた。

視世陽木
視世陽木

じゃあさ、これちょうだい? お金は払うから。

 すると坂本は何の気なしに了承した。

坂本
坂本

どうせ着ないし、お金はいいから持ってっていいよ。

視世陽木
視世陽木

マジ!? ありがとう!

 喜びのあまり、普段ケチくさい坂本がタダで服をくれた、という違和感に気づけなかった当時の自分を呪いたい。

鈍感だった私は、このようにして恐怖へと引きずり込まれていくのだった。

違和感

 服をもらって帰宅した日の夜、息苦しさに目を覚ました。

視世陽木
視世陽木

また金縛りか……

当時は頻繁に金縛りに遭っていたため、多少の恐怖はありながらも冷静に受け止めていた。

特に頭痛や耳鳴りを伴うような金縛りではなかったので、油断してしまっていたのだ。

 唯一動かすことが可能な視線だけを必死に巡らせていると、見慣れているはずの部屋に違和感を覚えた。

視世陽木
視世陽木

何か変だな……

 必死に巡らせた視線で何かを感じ取ったのだろうが違和感の正体がわからない。

金縛りは続いていたのでそれから何度も室内に視線を巡らせ、ついに違和感の正体を発見した。

 いつもならしっかりと閉めるのだが、不精してしまったのかクローゼットの扉が左半分だけ開いていた。

掛けられた服がきれいに並んでいるのが目に入ったのだが、そこから何とも言いがたい嫌な雰囲気が漂っていたのだった。

 そしてついにとある服に釘付けとなる。

違和感の正体

視世陽木
視世陽木

うわっ!!

 声は出なかったが、盛大に驚いてしまった。

とある服の袖口から青白い手がダラリと出ており、血の気を感じさせないその腕は、痙攣しているかのように時折ピクピクと動いていた。

再現(※合成画像であり本物ではありません)
視世陽木
視世陽木

坂本からもらった服じゃん……

 違和感の正体に気づいた私だったが、不思議と怖さは感じなかった。

特に害意は感じられず、金縛りを解こうと躍起になっているうちに寝てしまったようで、気が付いたら朝になっていた。

もちろん朝には青白い腕は消えていた。

詰問

視世陽木
視世陽木

説明してもらおうか?

 朝一番で坂本宅に乗り込み、例の服をバサリとテーブルに置いて問い詰める。

 しかし坂本に悪びれた様子はまったくなく、淡々と話し始めた。

坂本
坂本

古着屋で買ったってのは本当だよ。500円ぐらいだった。

視世陽木
視世陽木

500円!?

 私が驚くのも無理はなく、その服はファッションに興味がない人でも1度は聞いたことがあるだろう、有名なブランドのものだった。

坂本
坂本

古着屋って滅多に行かないからさ、ブランド物でもそれぐらいの値段なんだって思ったんだ。

価格設定を特に不思議に思わなかったらしい。

視世陽木
視世陽木

何でその日に限って古着屋に?

 私が問うと、自分のことのくせに小首を傾げながら答えた。

坂本
坂本

呼ばれた気がしたんだよ。

視世陽木
視世陽木

店員に?

坂本
坂本

いや、この服に

 ギョッとする私に構うことなく彼は話を続けた。

坂本
坂本

何かに呼ばれた気がしてふらふら店に入ったんだよ。

他の服には目もくれず、引き寄せられるように一直線にその服の場所へ辿り着いたと言った。

視世陽木
視世陽木

単刀直入に聞くぞ? この服にお前は何を見た?

 嫌な予感しかしないため、機先を制して問うた。

坂本
坂本

自殺だと思うんだけど、元の持ち主は死んでるな。

視世陽木
視世陽木

マジかよ、おい!

  さらに彼は「確証はないけど」と前置きし、持ち主がかなり気に入っていた服で、亡くなった際に着ていたか近くにあったのではないかと言った。

視世陽木
視世陽木

俺、袖通したんだけど……

 しっかり着たわけではないが、サイズ感を確認するために軽く着てしまったのだ。

坂本
坂本

それぐらい大丈夫だろう。

坂本いわく、思念の様なものが残ってるだけで悪さをする感じではないとのこと。

なるほど、昨日の金縛りにいつもの恐怖を感じなかったのはそういうことか!!

とはならない!!

視世陽木
視世陽木

返品します!

坂本
坂本

そうなると思って金を取らなかったんだよ。

 どうやら確信犯だったようで、悪戯に成功した子どものように笑う彼に、ため息をつくことしかできなかった。

余談

 恐怖体験の話は以上だが、余談として少しだけ遺品の扱いについて書いておこうと思う。

 遺品の扱いは様々で、形見として手元に残しておく人もいれば、思い出すのがツラいからと処分する人もいる。

 処分についてだが、処分方法は様々だ。

遺品整理業者に完全委託する人もいれば、自分達で手配をしてお焚き上げまでする人もいる。物によっては知人友人に譲る人もいるだろう。

 そして現在ではリサイクル業者が遺品整理を行っていることも多い。

業者が保有している資格や認定書にもよるが、再利用できる物のみ買取する業者もあれば、一般産業廃棄物処理業の許可を取っていて回収・処分までおこなってくれる業者もある。

 今回登場した「服」というのは、再利用可能品である。

どういう経緯で古着屋に辿り着いたかは不明だが、亡くなった人の品物、いわゆる遺品が市場に流通しているということは実は珍しくない

 すべての品に霊や思念が憑いているわけではないが、中古の品を購入する際にはぜひ気を付けていただきたい。

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