【怖い話14】こっちだよ

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怖い話 エレベーター 心霊系の怖い話

噂話

 いつかはわからないが、かつてその建物で首吊り自殺をした人がいた。建物内にはエレベーターが2基あり、そのどちらかで首を吊っていたのが発見された、という噂が囁かれていた。

後輩
後輩

近いから行ってみましょうよ!

 ふとしたことで耳にした噂話をお酒の場で軽率に話してしまったため、後輩達のテンションが急激に高まってしまう。

 しかし、かつて肝試しで痛い目を見た私はやんわりと諫める。

視世陽木
視世陽木

行かねーし、やめとけよ。

 後輩も私が肝試しに否定的なことは知っているため、しつこく誘ってくるようなことはせず

後輩
後輩

じゃあ俺達だけで行ってきますね!

と言って、意気揚々と出ていった。先輩の忠告は素直に聞いてほしい。

 立ち入りが禁止されている建物ではなかったため、ふらっと行くぐらいなら問題がなく不法侵入にもならない。

 私はちゃんと止めたので、そこから先は何があろうと自己責任だ。意気揚々と出かける後輩達を、溜め息交じりに見送るのだった。

最悪の同行者

 小一時間ほど経つと、あれほど意気揚々と出かけた後輩達が暗い顔をして俯いて戻ってきた。

視世陽木
視世陽木

どうした? 何かあったのか?

後輩
後輩

……怖い体験をしました。

 肝試しの言い出しっぺの後輩が、蚊の鳴くような声で呟いた。怖い体験をしたくて行ったんだろう?という皮肉をグッと堪え、優しく声をかけてやる。

視世陽木
視世陽木

とりあえず飲みなおすか? 落ち着いてからでいいから、話を聞かせてくれよ。

 私の声に安堵したのか、ようやく顔を上げる後輩達。思い思いに席に座りだしたが、恐怖を打ち消すために身を寄せ合うかのように、隣り合う距離は近かった。

 少しだけお酒を飲みなおし、落ち着いたところで後輩が意を決して話し出した。

後輩
後輩

その建物に行く途中で、坂本先輩に会ったんです。

視世陽木
視世陽木

あ~ぁ……

 もう嫌な予感しかしない。

 私は元来オカルト好きであり、坂本と行動する中で様々な経験をしたので、恐怖体験には多少の免疫がある。しかし、後輩達はあくまで「夏だし肝試ししようよ!」ぐらいの無邪気な一般人。坂本がエスコートするオカルト体験ツアーに耐えられるはずがなかった。

後輩
後輩

噂話の内容と今から行くってことを伝えたら、少し考え込んで「俺も行く!」って言い出して……

後輩
後輩

視世先輩から「坂本の霊感はヤバすぎる」って聞いてましたけど、せっかくの肝試しだから一緒に来てもらうことにしたんです。

二択は指さす先

 坂本を交えた肝試し部隊が建物に到着し、エレベーターの前に立ち並ぶ。

後輩
後輩

どっちなんだろうな?

 いざエレベーターを前にして気づいたらしいが、2基のうちどちらが自殺があったエレベーターなのかわからない状況。話を聞かせた私も、実はその日小耳に挟んだ噂話を聞かせただけだったので、どちらかまではわからなかった。

 しかしどちらだろうと盛り上がる後輩をよそに、坂本の手がスッと動いたという。

坂本
坂本

こっちだよ

 タイトルを覚えている方なら予想していただろう。当然と言うかなんと言うか、同行した坂本が片方のエレベーターを指さした。

 何の迷いもなく真っすぐな目で片方のエレベーターを指さす坂本に、恐怖を感じ始める後輩達。しかし怖がる後輩達など何のその、坂本はエレベーターのボタンを押したのだった。

後輩
後輩

ちょっ……! まっ、待ってくださいよ!

 どうやら1階で待機していたらしく、エレベーターのドアはすぐに開いた。深夜の暗い空間に、エレベーターの明かりが眩しいくらいに零れ出した。すでに日付が変わった後、そんな時間だからもちろん中には誰もいなかった。

後輩
後輩

何もないですね……

 好奇心と恐怖心が同居した後輩達は、エレベーターの中に入ることはせず、外から異常がないことを確認した。

 しかし余計なことを言い出すやつがいた。

坂本
坂本

乗ればわかるよ誰か1人でな。

 宵闇の空間で不気味に明るく口を開けるエレベーター。誰が乗るかでモメたのでじゃんけんで決めることになり、負けてしまった女の子が乗ることになった。

坂本
坂本

行き先も何も押さなくていい。俺がこっちでドアを開けるまで、ドアに背を向けて黙って立ってろ。

 じゃんけんで負けてしまった女の子は今にも泣きそうだったらしいが、じゃんけんに負けたからという諦めがあり、エレベーターに乗り込んでドアに背を向けて立った。

 そして静かにドアが閉まる。

彼女が体験した恐怖

後輩
後輩

キャアアァァァァ!!

 エレベーターに乗り込んで数分後、彼女の絶叫が響き渡った。

後輩
後輩

なんだ!? どうした!?

 突如響いた絶叫に他の後輩達もパニックになり、黙って様子を見ていた坂本が上下ボタンを押してドアを開けた。

 すると、ボロボロと涙を流した女の子が這う這うの体で出てきた。

坂本
坂本

視世が肝試しを止める理由がわかったろ? これに懲りたらさっさと帰れ。後の調査は俺が1人でやっとくから。

 泣き崩れている女の子を囲む後輩達に言い捨て、シッシッと追い払うように手を振る坂本。たった今そこで何かが起こったらしいエレベーターを前に、まったく動じる気配のない坂本に再度恐怖した後輩達は、部室に逃げ帰ってきたということだった。


 報告を聞き終えた私は1つだけ確かめた。

視世陽木
視世陽木

エレベーターの中で何があったの?

 エレベーターに乗せられた女の子がビクッと肩を揺らし、自身を腕で抱きながら答えた。

後輩
後輩

何もしてないのにいきなり電気が消えました。

 正直聞くまでもなかったのだが、あまりに予想通りすぎた答えに苦笑してしまう。

視世陽木
視世陽木

お前達、坂本に揶揄からかわれたな。

後輩
後輩

えっ?

後輩
後輩

揶揄われた?

視世陽木
視世陽木

そう、揶揄われたんだ。メーカーや機種によるけど、エレベーターは非稼働状態の時に節電のため自動消灯するものが多いんだよ。

後輩
後輩

ってことは……?

視世陽木
視世陽木

坂本の言うことを愚直に聞いて、エレベーター内で身動きしなかったから電気が消えたんだろうな。

後輩
後輩

や、やられた……

視世陽木
視世陽木

ちょくちょく話してるけど、あいつは霊感のことで苦労してきてるからな。戒めのつもりだったんだろう。

 少し強めの口調で言うと、みんなバツが悪そうに俯いた。何となく気まずい雰囲気になったのでそのまま解散。全員の姿が見えなくなったことを確認し、携帯電話を取り出して発着信履歴の上部に鎮座する番号をプッシュする。

視世陽木
視世陽木

みんな帰ったぞ。

本当に想像?

視世陽木
視世陽木

さぁ、話してもらおうか?

坂本
坂本

さて、どこから聞きたい?

 電話してすぐにやってきた坂本と声が重なる。

ニヤニヤと笑う彼から自発的に話しそうになかったので、小さく溜め息をついて問うた。

視世陽木
視世陽木

心霊現象についてだけは絶対にふざけたりしないお前が、どうしてあんなイタズラまがいのことをしたかってことだ。

 ずっと頭に引っかかっていた。霊感で苦労してきた人間だからこそ、普段の坂本は心霊現象のことでふざけたりはしない。

坂本
坂本

質問に答える前に、俺からも質問させてくれ。

視世陽木
視世陽木

何だよ?

坂本
坂本

あのエレベーターの噂、お前はいつから知ってたんだ?

視世陽木
視世陽木

前から知ってたわけじゃないよ。今日その噂話をしてる人がいて、小耳に挟んだだけだ。

坂本
坂本

そうかそうか。じゃあその人はなぜ今日その噂話をしてたと思う?

視世陽木
視世陽木

知らねーよ。夏だから怖い話、みたいな流れだったんじゃないか?

坂本
坂本

違うよ、たまたまなんかじゃない。

視世陽木
視世陽木

妙に断定的に言うな? じゃあ何で今日だったんだよ?

坂本
坂本

今日が命日だからだ。

 何を言っているのか一瞬わからなかった。

坂本
坂本

数十年前の今日、その人は本当にエレベーターで自殺したんだよ。地方紙にも載らないような、静かに葬り去られた自殺だ。調べた。

 私も図書館のデータベースで過去の新聞記事を軽く調べはしたが、坂本が言うようにどの新聞にも載っていなかったため、ただの噂話だと思って軽率に話してしまった。どうやって調べたのかはいまだに謎のままだ。

坂本
坂本

お盆信仰みたいに、霊が冥府から戻ってくるなんて俺は思ってない。成仏できない霊はずっとそこにいるし、成仏した霊が特定の日だけ現れるなんてこともない。0か100なんだよ、霊は。

 微弱なる霊感しか持たない私には到底理解できない理屈だった。

視世陽木
視世陽木

何が言いたいんだ? わかるように言ってくれよ。

坂本
坂本

そいつの命日だからって、毎年この日だけエレベーターに現れるわけじゃないってことだ。

視世陽木
視世陽木

じゃあ何もなかったんだな?

 私の問いかけは無視され、微笑しながら続ける坂本。

坂本
坂本

たまたまそいつの命日で、たまたま自殺の話が噂されるなんて不思議だなぁ?

視世陽木
視世陽木

たまたまなんだろうな。

 少し不貞腐れて返すと、坂本は真面目な顔つきに戻した。

坂本
坂本

ここからは俺の想像だから聞き流してもらっていい。

 そう前置きして語りだす。

坂本
坂本

自殺なんていう死に方を選んだあいつは、成仏できなかったんだ。死んでも死にきれず、校内を徘徊する存在になった。

 自分で自分を殺すという死に方を選んだその人は、何を求めて彷徨うのだろうか。

坂本
坂本

誰にも認知されず、ただひたすら徘徊する日々。そして毎年その日はやってくる。

視世陽木
視世陽木

死を選んで実行した日、命日だな。

坂本
坂本

彼が亡くなってしばらくの間は、実際に起きた事件として人から人へ生々しく語り継がれただろう。

 しかし、学生の卒業や教授の転勤・退官により、その話は『実際の話』から『過去にあった話』へと変わり、さらに『過去にあった話』から『確証のない噂話』へと変わってしまう。

 噂話なんてほとんどがそんなものだ。記録がなければないほど、時が経てば経つほど、真偽はわからなくなってしまう。

坂本
坂本

けど、その繰り返す死した日々の中に、この世のものざらぬ存在に敏感な人間が時折現れる。

視世陽木
視世陽木

お前みたいな、霊感が強いやつか。

坂本
坂本

数十年の間に、霊感が強いやつが何人かはいたんだろうな。敏感なる生者に、そいつが何かを囁いたとしたら?

視世陽木
視世陽木

「俺は数十年前の今日死んだ」とでも囁くっていうのか?

坂本
坂本

知らねーよ。俺の想像だって言ったろ?

 後輩達が残していった酒をあおり、誤魔化すように吐き捨てた。

坂本
坂本

俺に揶揄われたのは後輩達あいつらだけじゃない。

お前もだよ。

 話は終わりだと思っていた矢先、酒を飲み干した坂本が私を指さして言った。

あなたは真相を見つけられますか?

視世陽木
視世陽木

この話には『真相編』があります!

疑問
  • なぜ視世陽木も揶揄われたと言われたのか?

 気になる方はぜひ『真相編』までお読みください。

視世陽木
視世陽木

えっ?『真相編』がいつ投稿されるかですって?

!公開済みです!

視世陽木
視世陽木

『真相編』は、普通に投稿されているわけではありません! この投稿のどこかに『真相編』への入口があります。

 めちゃくちゃ簡単な入口ですが、わからない人のためにヒントを『小ネタ集』に掲載しています。

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