【怖い話32】異臭の正体

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心霊系の怖い話

久しぶりの連絡

 ある日のこと、学生時代のクラスメイトから久しぶりの連絡があった。

視世陽木
視世陽木

もしもし? 久しぶりだね。

友人
友人

久しぶり! 急にごめんね? 今、電話大丈夫?

 普通の人なら旧友からの久しぶりの連絡に懐かしさや嬉しさを覚えるのだろうが、私の場合は事情が違う。

友人
友人

友達から相談を受けたんだけど、たぶん視世くんの方が詳しいかなって思って……

 友人知人からの久しぶりの連絡はこういった始まりが多いため、「やれやれ、またか」と苦笑いしながら、話の詳細を聞くことになるのである。

  電話では伝わりにくいかもしれないとのことで、後日会って直接話を聞くことになった。

心当たりのある話

Dさん
Dさん

初めまして、Dと申します。今日はわざわざすみませんでした……

 数日後、行きつけの喫茶店でDさんと対面していた。
ちなみに電話してきた友人は急用で立ち会えなくなったため、初対面の女性と2人きりという気まずいシチュエーションとなった。

視世陽木
視世陽木

いえ、ちょうど休みでしたので気にしないでください。

 気を遣わせないようそう前置きし、こちらも自己紹介した。

Dさん
Dさん

薬剤師をやってるんですけど……

 挨拶もそこそこに早速本題に入ったのだが、Dさんの話し出しから思い当たる節があった

しかし話の腰を折るのも申し訳ないので、黙って最後まで聞くことにした。

Dさん
Dさん

普段は何もないんですけど、1人きりになると不意に人の気配がするんです……

 1人でいる不安感による勘違いも考えられるが、おそらくDさんの場合は違う

Dさん
Dさん

それと、薬局内は常に清潔にしてるんですけど、たまに原因不明の異臭がするんです。

 Dさんはそれ以外にもいくつかの怪異を話し、30分程で相談は終わった。

Dさん
Dさん

……どう思いますか?

 一方的に話し続けていたことに気づいたDさんが、少し顔を赤くして尋ねてきた。

 すでに心当たりがあったので、軽いジャブ程度の質問をしてみた。

視世陽木
視世陽木

Dさんが働いているのって××薬局じゃないですか?

 するとDさんはギョッとして少し顔を青ざめさせた。ジャブのつもりがストレートになってしまったようだ。

Dさん
Dさん

えっ……何で!?

 彼女が驚くのも無理はない。お店のためか保身のためは不明だが、彼女は話し中1度も薬局名は出さなかったのだ。

 驚いている彼女に最終確認をした。

視世陽木
視世陽木

本当に聞きたいですか?

真相?

 Dさんが頷いたのを確認し、真相を話すことにした。

視世陽木
視世陽木

Dさんが働いている薬局、前は何のテナントが入ってたか知ってますか?

Dさん
Dさん

えっと……どこかの企業の事務所が入ってたって聞いてます。

視世陽木
視世陽木

間違いないですね。そしてその事務所の前は、ラーメン屋がテナントとして入ってたんですけど、それはご存知ですか?

Dさん
Dさん

いえ、初めて聞きました。

 以前テナントとして入っていたラーメン屋は、年配の店主が1人でやっている店だった。人を雇わず1人で切り盛りできるよう、カウンター席だけの小規模なお店。

 立地が良いのでそこそこ繁盛していたのだが、ある夏の日に悲劇が起こる

Dさん
Dさん

悲劇?

視世陽木
視世陽木

店主が仕込み中に心臓発作を起こして倒れ、そのまま亡くなってしまったんですよ。

 意外すぎた内容だったのだろう、Dさんはそこそこの声量で「えぇっ!?」と声を上げた。

 店主には身内がおらず、1人で切り盛りしていたため誰かが出勤してくることもない。シャッターが下りたままの店内で、夏の暑さにただただその身を腐敗させていくだけだった。

視世陽木
視世陽木

異臭を感じた近所の人が不動産屋に連絡して、ようやく発見されたみたいです。

 関係者から聞いた話によると、夏の暑さに完全に腐敗していたらしい。

視世陽木
視世陽木

事件性がないってことがわかってから特殊清掃が入って内部リフォームがされたようです。

入れ替わりの激しさ

視世陽木
視世陽木

それからはDさんも知ってのように企業の事務所が入ったけど、すぐに出てったらしいですね。何があったかはわからないですけど。

 私の言葉にDさんはゴクリと唾を飲んだ。

 話は以上に留めた。私が実際に体験した話ではないし、知り合いの警察官から少し話を聞いた程度だ。必要以上に怖がらせる必要はあるまい。

 すっかり顔を青く染めてしまった彼女を慰める術もなく、「お先に失礼します」と言って伝票を持って席を立った。後のことはDさんが決めることだ。

 それからしばらくして、仕事の関係で私は少しの間地元を離れることとなる。

 数年後、久しぶりに地元に戻った私はたまたまその場所を通り、Dさんからの相談をふと思い出した。

視世陽木
視世陽木

しょうがないか……

 Dさんが働いていた調剤薬局は別の場所に移ったらしく、降ろされたシャッターに「空きテナント」と書いた紙が貼られていた。

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