ある日のこと、学生時代の友人から久しぶりの着信があった。
「急にごめんね? 今、電話大丈夫?」
普通であれば、旧友からの久しぶりの連絡に懐かしさや嬉しさを覚えるのだろうが、こちらの事情は少し違う。
「友達から相談を受けたんだけど、たぶん視世くんが詳しいかなって思って……」
私の得意分野に関する話だったため、後日直接会って詳細を聞くことに。
数日後、私の行きつけの喫茶店にて、連絡してきた友人が急用で立ち会えなくなったため、気まずいシチュエーションで、2人きりの対面となっていた。
「初めまして、Dと申します。今日はわざわざすみませんでした……」
「いえ、ちょうど休みでしたので気にしないでください」
お互いに軽い自己紹介を交わすと、Dさんはすぐに「私、薬剤師をやってるんですけど……」と本題に入った。
「普段は何もないんですけど、1人きりになると不意に人の気配がするんです」
彼女はさらに続けた。
「それと、薬局内は常に清潔にしてるんですけど、たまに原因不明の異臭がするんです」
それ以外にもいくつかの怪異を語り、30分程で相談は一区切りついた。
「……どう思いますか?」
一方的に話し続けていたことに気づいたのか、少し顔を赤くして尋ねてくる。
実は、話を聞いているうちに、私は心当たりがあるなと感じていた。
そのため、感じた心当たりに間違いがないか確認するため、1つ質問を投げてみる。
「働いているのって、駅前の××薬局じゃないですか?」
すると、彼女はギョッとして表情を強張らせた。
「えっ……何で!?」
長々と話しつつも、彼女は会話の中で1度も具体的な薬局名は出していなかった。
それなのに、勤務する薬局名を私がずばり言い当てたのだ。
彼女が驚くのも無理はない。
動揺する彼女に、最終確認をおこなう。
「真相、聞きたいですか?」
しばらく考えた後、彼女が無言で頷いたので、私は真相を語ることにした。
「今働いている薬局の前に、何のテナントが入っていたか知っていますか?」
「えっと……どこかの企業の事務所が入ってたって聞いてます」
「ああ、それは間違いないですね。では、その事務所の前はラーメン屋が入っていたことはご存知ですか?」
「いえ、知りませんでした」
そのラーメン屋は、年配の店主が1人でやっている店だった。
私も1度だけ行ったことがあったのだが、カウンター席だけの小規模な造りだったのを覚えている。
立地が良いのでそこそこ繁盛していたのだが、ある夏の日に悲劇が起きてしまった。
「店主が仕込み中に心臓発作を起こして倒れ、そのまま亡くなってしまったんですよ」
私の言葉に、彼女は「えぇっ⁉」と声を上げた。
老店主1人での営業だったため、アルバイトの誰かが出勤してくることもない。
聞いたところ身内もいなかったようで、シャッターが下りたままの密閉された空間で、夏の暑さにただただその身を腐敗させていったのだ。
「異臭を感じた近所の人が不動産屋に連絡して、ようやく発見されたみたいです」
関係者から聞いた話によると、すさまじい状況だったらしい。
事件性がないことが確認されてから特殊清掃が入り、内部リフォームが施されたようだ。
「それからは、ご存じのとおり企業の事務所が入りましたが、すぐに出ていったと聞いています。何があったかはわかりませんけど」
私の言葉に、彼女はゴクリと喉を鳴らした。
それからしばらくして、私は少しの間 地元を離れることになる。
数年後、久しぶりに戻った街でたまたまその場所を通りかかり、ふとあの日の相談を思い出した。
「しょうがないか……」
Dさんが働いていた調剤薬局は別の場所に移転したらしく、固く閉ざされたシャッターには「空きテナント」と書かれた古びた紙が貼られていた。


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