【怖い話26】金縛りの話②

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怖い話 金縛り 人にまつわる怖い話

前書き

 怖い話というカテゴリを見てみると、必ずと言っていいほど金縛りの話が出てくる。例にもれず私も金縛りを体験したことがあるし、見聞きした話でも金縛りにまつわるものは多い。

 ブログで怖い話を書き続ける限り、今後も金縛りの話を追加することもあると考えたので、「②」のようにナンバリングさせていただく。

 それぞれの話は独立しているので、2つの例外を除いてはどこから読んでいただいても支障はない。

視世陽木
視世陽木

2つの例外は下のブログカードからご確認ください!

相談

 学生時代にクラスメートのAさんから聞いた話。

 失礼な表現になるが、Aさんとは特別仲が良かったわけではない。同じクラスだったが、教室や構内で会えば挨拶はする、ぐらいの関係だった。

 そんな希薄な関係だったAさんが、ある日の講義後に話しかけてきた。

Aさん
Aさん

ちょっと時間取れない?

 声や表情から深刻な話である気配を感じ取ったため、学生食堂に移動して奥の人気のない席で話をすることにした。

視世陽木
視世陽木

Aさんから話しかけてくるなんて珍しいね?

Aさん
Aさん

なによ、その言い方?

視世陽木
視世陽木

だって、Aさん俺のこと苦手でしょ?

 仮にもクラスメイトにこんな風に切り出すのには理由わけがあった。

 先述したように私はAさんを普通のクラスメイトと思っていたが、Aさんはどうも私を避けている節があった。顔を合わせれば挨拶はするし、話しかければ普通に話をするのだが、どこか距離を置かれてるように思えたのだ。

 私の言葉に一瞬だけバツの悪そうな顔をし、苦笑いして彼女は答えた。

Aさん
Aさん

そんな風に勘が良すぎるところが苦手なのよ。

 自分では勘が良いつもりはなかったが、Aさんにはそう映っていたのだろう。

Aさん
Aさん

それに私は怖い話も苦手なの。

視世陽木
視世陽木

ハハハッ! じゃあ俺のことなんて嫌いでもしょうがないね。

 根っからのオカルト大好き人間な私は思わず笑ってしまった。

Aさん
Aさん

苦手ってだけで、嫌いじゃないわよ!

視世陽木
視世陽木

それは光栄です。で、苦手な俺と2人きりになってまで話したいことってのは?

Aさん
Aさん

いちいち嫌味な言い方しないでよ、私が悪者みたいじゃない。

 彼女は少しだけ口を尖らせながらも話し出した。

Aさん
Aさん

1週間ぐらい前に金縛りに遭ったの。

 苦手な私に話したいことがあるというくらいだから、十中八九は心霊系の話だろうと予想はしていた。

視世陽木
視世陽木

金縛りにはよく遭うの?

Aさん
Aさん

ううん、それが初めてだった。初めてってこともあって余計に怖かったの。

 よほど怖かったのだろう、思い出しながら話すAさんの手は震えていた。

視世陽木
視世陽木

でも、金縛りに遭って怖かったってだけじゃないんでしょ?

Aさん
Aさん

そういうとこが苦手なのよ。どうしてわかったの、続きがあるって?

視世陽木
視世陽木

そりゃわかるさ。ただ金縛りに遭って怖かっただけなら、友達に「昨日初めて金縛りに遭って怖かったんだよね~」ぐらいで終わる話だからね。

 コーヒーを飲んで一息つき続ける。

視世陽木
視世陽木

苦手な俺に話すぐらいだ、もっと別の恐怖があったと思ったんだ。真剣な内容じゃなきゃ、俺からもっと怖い話をされて、余計怖い目にあうかもしれないからね。

Aさん
Aさん

苦手と嫌いは別物よ。視世くんは確かにいたずら好きだけど、本当に嫌がることはしないって信用してるのよ。そうでしょ?

視世陽木
視世陽木

さぁね、どうだか?

 しらばっくれる私にAさんは少し微笑んだ。

Aさん
Aさん

ありがとう、話しやすくしてくれたんでしょ?

 一言そう言うと、私の返事は聞かずに話し始めた。

初めての金縛り

Aさん
Aさん

く、、苦しい……

 突然のことだった。普段はアラームが鳴るまで目覚めないAさんが、息苦しさに目を覚ましたという。

Aさん
Aさん

っ!? 体が動かない!?

 すぐに金縛りだと気づき怖くなったAさんだが、どこか少しだけ冷静な自分がいた。

Aさん
Aさん

これはたぶん疲れからくる金縛りね。金縛りのほとんどは疲れからくるものだって視世くんが話してたし。

 当時の私は至る所で友人と怖い話をしては、怖い話が苦手な人に怒られていた。Aさんもいつかの私の話を聞いて覚えていたのだと言った。

Aさん
Aさん

最近バイトも忙しかったし。

 母子家庭で育ったAさんは、高校生の頃からアルバイトに精を出していた。家に少しお金を入れて、あとは貯金。大学にも奨学金をもらいながら通っている、母親思いの頑張り屋さんだった。

 大学に入学してからも講義が終わった後は遅い時間までアルバイトをし、疲れ果てて帰宅しては朝まで眠るというハードな生活を送っていた。

Aさん
Aさん

大丈夫、黙ってればそのうち解け……

ガチャッ

 気持ちを落ち着かせようとしていたその時、部屋のドアが開く音がした。

Aさん
Aさん

ヒィッ……

 金縛りで起き上がれないどころか、首や顔が動かすこともできず何が起きているかわからない。まぶたは開いているのか閉じているのかわからない状態だったが、不思議と視界は確保されていた。

Aさん
Aさん

誰か入ってきたの……?

 ドアが開く音がしたが、Aさんの目には侵入者の姿は映らない。

ヒタヒタ…

ヒタヒタ…

ヒタヒタ…

Aさん
Aさん

ヒィィッ! ち、近づいてくる!!!

 あまりの恐怖にパニックになるAさん。

 そんな彼女を誰かがヌッと覗き込んできた

侵入者

Aさん
Aさん

おかあ、さん……?

 パニック状態のAさんを覗き込んだ侵入者は、彼女の母親だった。体はまだ動かなかったものの、侵入者の正体を知り安堵する。

 しかしその安心も束の間、覗き込む母の顔を見たAさんは再び恐怖した。

Aさん
Aさん

おかあさん……なの?

 生活は苦しかったものの、母娘2人幸せに暮らしてきた。どんなに苦しくとも、彼女の母は笑顔を絶やさない人だった。

Aさん
Aさん

違う……、お母さんじゃない!!

 普段の優しい笑顔はなく、母は信じられない形相でAさんを見下ろしていた。これ以上ないほどギュッと眉はひそめられ、睨み付ける目は血走っていたという。

 憤怒の形相でAさんを覗き込んでいた母が、小さな声で繰り返し呟いた。

Aさん母
Aさん母

お前のせいで……お前のせいで…お前のせいで……

Aさん母
Aさん母

死ね……死ね……死ね……

どちらがマシ?

Aさん
Aさん

いつの間にか気を失ってたみたいで、アラームが鳴ってから汗びっしょりで起きたわ。

 彼女の恐怖体験の話が終わった。話している最中から彼女は知らず知らず自身の身を抱き、小刻みに震えていた。

視世陽木
視世陽木

怖い思いをしたね。それで、お母さんの様子は?

Aさん
Aさん

朝、恐る恐る話しかけてみたけど、いつもと変わらないお母さんだった。

 でも、と彼女は続けた。

Aさん
Aさん

あの時の表情、絶対いつものお母さんじゃなかった……

視世陽木
視世陽木

なるほどね……

 これまでの話と彼女の生い立ち、そして今の彼女の様子や反応から、私は1つの結論に達した。

視世陽木
視世陽木

Aさんはさ、お母さんが何かに取り憑かれていたって考えたいんでしょ?

Aさん
Aさん

ほんっと、嫌になるほど鋭いわね……

 その日何度目かの苦笑いの後、Aさんは溜め息交じりに呟いた。

Aさん
Aさん

そりゃそうよ。お母さんは今までずっと優しかったし、夜の様子は本当に異常だったわ。

もちろんそれはそれで心配だけど、何かに憑依されてたとかの方がまだ納得できるの。

視世陽木
視世陽木

でも不安なんでしょ?

Aさん
Aさん

……お父さんが急にいなくなってから、お母さんは女手1つで私を育ててくれたわ。若くして私を産んだから、まだ遊びたい盛りの時からずっと仕事と子育てで苦労してきたはず。だから……

視世陽木
視世陽木

いいよ、無理して言わなくて。

Aさん
Aさん

ここまで話したんだから、言った方がスッキリするわ……

 コーヒーを一口飲み、呟くように話すAさん。

Aさん
Aさん

私のせいで仕事や子育てで苦労してきたお母さんの、普段は言えないような本音があの時に出てたとしたら……

 この呟きをもって、Aさんが本当に話したかったことは終了となった。

 私は彼女の母親のことをよく知っているわけでもなければ、その日の様子を実際に見たわけでもない。軽々しく「たぶん大丈夫だろ」と無責任なことを言えるはずもなく、結果的にただ話を聞いただけとなってしまった。

視世陽木
視世陽木

何も力になれなくてごめんね。

 学食を出て別れる時に自分の無力さを詫びた。

Aさん
Aさん

ううん、聞いてくれただけで助かった。こんなの誰にでもできる話じゃないからさ。

 それはそうだろう。ある程度彼女と彼女の家のことを把握しており、怖い話に耐性や理解がある人でないと聞けない話だ。

 この話を聞いてから大学卒業までは何事もなかったという。話を聞いた以降もAさんとの関係に変化はなかったが、卒業式の後に一言

Aさん
Aさん

あの時はありがとう。

と笑ってくれた。

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コメント

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