前書き
怖い話というカテゴリを見てみると、必ずと言っていいほど金縛りの話が出てくる。例にもれず私も金縛りを体験したことがあるし、見聞きした話でも金縛りにまつわるものは多い。
ブログで怖い話を書き続ける限り、今後も金縛りの話を追加することもあると考えたので、「①」のようにナンバリングさせていただく。
それぞれの話は独立しているので、2つの例外を除いてはどこから読んでいただいても支障はない。

2つの例外は下のブログカードからご確認ください!
\ 全3編からなる不思議な女シリーズ /
\ 隠しページで真相が楽しめる /
金縛りと耳鳴り

金縛りだ。久しぶりだな……
社会人として働いていたある日のこと。金縛りなど慣れっこだった私は、その日も最初のうちは悠長に構えていた。息苦しさだけ我慢していればそのうち解けるか眠りについて忘れる、そんな軽い気持ち。
しかし悠長な考えはすぐに裏切られる。
キーーーン
激しい耳鳴りに襲われたのだった。

ヤバい……
耳鳴りを伴う金縛りは危険である、という話を聞いたことがないだろうか?
聞いたことがある方は当時の私の恐怖を共感できるだろう。聞いたことがなかった方は、今後のために覚えておいてほしい。気圧差や耳の持病によるものを除く突然の耳鳴りは、霊が近くにいる可能性が高いと言われている。
突如の耳鳴りに緊張が走る。瞼を閉じていても部屋の様子が見えてしまう恐怖、これは実際に体験した人にしかわからないだろう。
ソレは突如現れた。
ソレは黒い大きな人型で部屋の入口付近に立っていた。そしてゆらゆらと身を震わせながら、ゆっくりだが確実に、私が寝ているベッドへと歩み進んできた。
接近
身の丈2mほどの黒いソレの動きは遅く、ゆっくりと近づいてくる恐怖を長い時間感じていた。

あれはヤバい……
本能的に危険を察知するも、体は全く動かない。足の小指でも動けばと末端の末端に意識を集中してみるがピクリとも動かない。ただでさえ息苦しかった呼吸がさらに苦しくなった。

これは本当にヤバいって……
語彙力を失い、単純な恐怖だけを噛み締める。鉛のように重い体を動かそうとするも叶わず、その間にもソレは着実に近づいてきていた。
そんなに広い部屋ではないため、ソレの歩みがどんなにゆっくりであろうと距離はすぐに詰められる。歩く感じではなく、蛞蝓のようにずりずりと近づいてきていた。

動け動け動け動け……
ただひたすらに『動け』という切実な命令を繰り返した。なおも近づいてくるソレが照明のヒモの下を通過し、暗闇を照らす手段が1つなくなってしまった恐怖が私に追い打ちをかける。
歩幅で言うなら、あと1歩踏み出せば私が寝ているベッド際というところまでソレは迫っており、金縛りが開始してから何百と繰り返された『動け』という命令は遂行されることなかった。

もう駄目だ……
ベッド際まで近づいたソレが覗き込むような動きに入り、手のような黒い影を私に伸ばそうとする。

終わった……
私はすべてを諦めた。
結末

で、結局何だったのソレは?
翌朝、私はすぐに坂本に電話をかけた。珍しく真剣な声が電話口から聞こえる。

わかんないんだよ。電気スタンドつけたら一瞬で消えたんだ。
すべてを諦めたあの瞬間、指がピクリと動き金縛りが解けたのだ!
自由を取り戻した手で、枕元にある電気スタンドの光を頼った。結果は坂本に話したとおりで、明かりがついた時、すでにソレの姿はなかった。

お前は憑かれやすいからな。
学生時代から繰り返されている言葉。どうやら私は憑かれやすい体質のようだ。

またどっかから憑いてきたんだろ。
かつて坂本は「霊は心霊スポットや墓場だけにいるわけじゃない」と言った。海や山にもいるし、普通に道を歩いてることもあれば、スーパーにいることもあるらしい。

もしくは通りすがりの霊な。
人の家を通過するのだけは遠慮してもらいたいものだ。

結局一睡もできなくてな。今後は大丈夫か不安で電話したんだ。

今は部屋なんだろ?

うん。
電気を点ければ平気だということは判明したので、電話をしている時は恐怖心はそこまでなかった。

何かいる雰囲気でもないし、聴こえたりもしないから大丈夫だろ。
無責任な気休めの言葉に思えるだろうが、オカルト的な事象に関しての坂本の言葉は信用できる。

よかったよ。電気点けっ放しじゃ眠れないからな。

神経質なのは相変わらずだな。
これにてこの金縛りの体験談は終わりだ。怖いもの好きな人からしたら、「え? これで終わり?」という感じだろうが、事実は小説より奇なり、何とも言えない後味だけを残して終わった実話なのだからしょうがない。
私から言わせてもらえば、「電気が点いて一安心。ホッとして後ろを振り返った瞬間、世にも恐ろしい霊が!」なんていう展開の方がいかにもホラー映画チックな眉唾物の話である。
今日に至るまで私の部屋では何度か怪奇現象が起こるのだが、それはまた別の話として書かせてもらうつもりである。
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