【怖い話28】魂の宿る場所

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推測の話

 いつかの夏の日、お盆に祖母の墓参りをしていた時にふと思い出したことがあった。

坂本
坂本

幽霊がお墓にいるって認識は間違ってると思う。

 坂本はそう前置きして、お墓に霊がいるパターンを挙げた。

坂本
坂本

1つは人間の頃の記憶が残ってるからだと思う。何らかの理由で成仏できない霊が「幽霊は墓場にいるものだ」って思って、なんとなく墓に滞在してるパターン。

視世陽木
視世陽木

じゃあ墓場以外にいる幽霊には、その思い込みがないってこと?

坂本
坂本

それもあるだろうし、墓にいても何も起こらないから動いたってこともあるだろう。もしくは地縛霊みたいに、特定の場所に未練や縛り付ける何かがあったりな。

 なるほど、納得だ。

坂本
坂本

もう1つは俺の考えなんだけど、思念とかが骨に宿っててお墓で具現化するパターン。

 幽霊に対して具現化という表現が正しいかは不明だが、骨に何かしら宿っているのなら、墓場に現れるのも頷ける。

坂本
坂本

いろんな墓を見てきたけど、まともに墓にいる幽霊は少ないと思う。たまたま墓場を通っただけの霊だったり、成仏の仕方がわからなくて何となく墓に来てみた霊だったりが多かった印象だな。

 はっきり視えてしまう彼らしい意見だ。微弱な霊感しかない私にはわからない世界である。

坂本
坂本

これも俺の推測だけど、骨に宿るってことは、生に未練がありながらも死を受け入れてた人じゃないかって思うんだ。

 老衰や病気などの事前に受け入れることができる死因、受け入れざるを得ない死因で亡くなった人の未練が骨に残るんだと思う、と彼は言った。

視世陽木
視世陽木

後に残るのって骨か髪ぐらいだけど、今どき遺髪を残すことは少ないだろうからな。

坂本
坂本

そうそう。だからこそ骨ぐらいしか執着できるものがないんだよ。

 執着と言い方が気にかかったが放っておいた。

視世陽木
視世陽木

霊が墓場にいないとなると、墓参りってのは生きてる人間のための儀式みたいだな。

坂本
坂本

さすが鋭いな、俺もそう思うよ。

 故人のことを忘れずにいるため、思い出のよすがに浸るため、『お墓』という象徴にお参りをするのだと私達2人は考えた。

坂本
坂本

その人が成仏してたら、無機質な石を拝んでるだけなんだぜ?

 確かにそうかもしれないが、本当に口が悪いやつだ。

外国の話

坂本
坂本

外国だとそのまま埋葬されるから、祈る対象が明確なんだろうけどな。日本だと石に祈ってるのか中の骨に祈ってるのか、いまいちわかりにくい。

 墓参りの意味を考えれば納められた骨に祈っているのだが、参る時にそこまで意識する人は多くはないだろう。多くの人は『お墓』という象徴物に祈っているはずだ。

 しかし少し補足説明が必要だろう。

視世陽木
視世陽木

最近は外国でも火葬が増えつつあるみたいだぞ。

坂本
坂本

えっ、そうなの?

 近年ではカトリック教会の火葬解禁やアメリカの若者の宗教離れがあり、費用の安い火葬も増えているとのこと。火葬せずに埋葬する場合、遺体の腐敗をできるだけ防ぎ醜い姿にならないよう、エンバーミング(遺体衛生保全)を施すことが多かったらしいが、エンバーミングはそこそこの費用がかかるとの話だった。

視世陽木
視世陽木

キリスト教では『死後の復活』が信じられてたから、火葬すると復活できないってことで土葬が慣例になってたんだよ。

 また、海や山に散骨してほしいと願う人もいるため、その場合も火葬する必要がある。火葬せずに海や山へ還そうもんなら死体遺棄だ。

視世陽木
視世陽木

あとは衛生面の問題もある。日本でもそうだったけど、土葬が廃れた理由は遺体の腐敗による感染症を防ぐためってのもある。いくら外国の埋葬でエンバーミングを施してたとしても、いずれは腐敗するからな。

坂本
坂本

失礼だけど、墓から這い出てくるゾンビのイメージだな。

視世陽木
視世陽木

それもあるよ。圧倒的少数派だろうけど、最近はゾンビ映画とかが人気だから、本気でそれを心配したり恐れたりする人もいるらしい。

坂本
坂本

マジかよ……

 補足説明のつもりが意外と盛り上がってしまったので、坂本が話を戻した。

電車の忘れ物

坂本
坂本

都会で電車に乗ってた時だけどな、1回だけ遺骨の忘れ物を発見したことがあるんだよ。

 なんという経験をしてるんだ、こいつは。世間話みたいにサラッと切り出すなよ、怖いだろ。

坂本
坂本

都会の電車とか地下鉄とかって複雑でさ。ソワソワしちゃって、つい周りを見回したりしてたんだ。

視世陽木
視世陽木

完全なお上りさんだな。

坂本
坂本

気分はまさにそんな感じだったよ。でな、ふと網棚が気になったんだ。

 私のような田舎者にはなかなか想像がつかないが、忘れ物なのか放置物なのか、新聞やビニール袋なんかがちらほら網棚にあったという。

坂本
坂本

網棚の1番端に、キッチリ壁に添えるようにして紙袋が置かれてたんだ。

 網棚の下の座席には誰もおらず、近くに立ってる人もいなかったらしい。

坂本
坂本

その紙袋から変な気配を感じたんだ。

視世陽木
視世陽木

変な気配?

坂本
坂本

何ていうかな……、中に入ってるのがただの『物』じゃない感じ。存在感があるっていうか。

 全然わからない。

坂本
坂本

でも嫌な感じじゃなかったし、次が降りる駅だったからそれを持って落とし物センターに行ったんだよ。

 紙袋を手にすると、ややズッシリとした重みを感じたという。

坂本
坂本

ここまで言えばわかるよな?

 あれほどの前置きをされたのだ。わからない方がどうかしてる。

視世陽木
視世陽木

骨壺か何かだったんだろ?

 私の言葉にニヤリと笑い、「正解!」と言って坂本は嬉しそうに笑った。

許されざる行為

坂本
坂本

忘れ物センターの人もギョッとしてたよ。何となくそんな感じはしてたんだけど、内容確認しようとしたら箱が出てくるわ、壺が出てくるわ、骨が入ってるわでさ。

 駅員さんがかわいそうである。

 ちなみにこの話を書くにあたって少し調べてみたところ、骨壺の忘れ物は年間数十件はあるらしい。しかも、そのほとんどが引き取り手が現れないというのだ。

坂本
坂本

駅員さんが言うには、忘れていったんじゃなくてわざと置いていったようなものが多いんだって。

 通常遺族や関係者に引き渡される骨壺には戒名札が付いており、火葬場の名前が入った包みで覆われていることが多いらしい。

 しかし駅員さんいわく

駅員
駅員

電車に置き忘れられてる骨壺は、戒名札が剝がされてることがほとんどなんだよ。これもそうだね。

とのこと。

 坂本が届けた骨壺も、どこで火葬された誰の遺骨なのか、手掛かりが一切ない状態だった。

坂本
坂本

わざと置いていったってことだよ。

 坂本は少し怒ったように言った。

法律で……

 日本では、墓地以外の場所に埋葬することは法律上禁止されている。墓地に納骨するか、自宅納骨(自宅で遺骨を管理すること)するかしかない。 ※ 法的な観点から見た散骨については以下の参考リンクをご覧ください。

 しかし納骨を拒む人もいる。お墓を建てるお金がなかったり、維持費が払えなかったり。管理ができないからと拒む人もいる。火葬まではしたが不仲だったり疎遠だったりして引き取りたくないという、人間関係的なこともある。

坂本
坂本

そんなんなら、そもそも収骨しなきゃいいんだよ。

 少し荒っぽい声で坂本は言った。

視世陽木
視世陽木

しゅうこつ?

坂本
坂本

収める骨って書いて収骨。火葬した後に火葬場から骨を受け取ることを収骨っていうんだけど、自治体とか火葬場によっては収骨を断れるんだよ。

 変なところで博識な奴だ。

 後日調べてみたところ、西日本では収骨を拒否できることが多いらしい。しかし1度収骨を断ると2度とできなくなるので、その判断は慎重にすべきとのこと。ちなみに収骨をしないことを0葬ゼロそうと呼ぶ。

坂本
坂本

これも駅員さんに聞いたんだけどさ、わざと骨壺とか遺骨を置いていったら死体遺棄罪に問われるらしいよ。まぁ戒名札とかが剥がされてたりするから、遺骨の身元の特定が困難だし、遺棄していった人を探すのも難しいらしいけどな。

 最近では電車だけではなく、スーパーのトイレに置いていったり、ゴミに出したりする人間もいるらしい。

坂本
坂本

人間って怖いよな……

 坂本がしみじみと言った。

坂本
坂本

骨になったといえ、元は人間なんだぜ? それを電車に置いていったり、スーパーのトイレに置いていったり、ゴミに出したり。正気の沙汰とは思えないよ。

視世陽木
視世陽木

確かに……

 話していて胸が苦しくなった。

 そして最後に坂本はこう締めくくった。

坂本
坂本

日本の法律って矛盾点が多かったり変に拘束力が強かったり弱かったりで好きじゃないんだけどさ、今回の件で少しだけ好きになれたよ。

視世陽木
視世陽木

何だよ急に?

坂本
坂本

だって、死体ってまだ肉体がある状態のことだろ? それなのに、骨になった状態でもまだ死体だって、人間だったんだって、法律で認めてるんだぜ?

遺骨の置き去りは死体・・遺棄罪

 つまりは骨には何かが宿っていることを、骨が元は人だったことを、しっかりと法で定めているのだ。

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