部室での怪談
これは学生時代、オカルト好きが集まる部室で友人(坂本)から聞いた、少し毛色の違う怖い話だ。
「中学生の頃の話なんだけどさ……」
坂本の中学時代。クラスの中でそれほど目立つタイプではなかったAくんという男子が、ある日突然、興奮気味にこんな話を始めたという。
「××町の外れにある廃墟ビルに肝試しに行ったら、女の幽霊を視た!」
オカルトなどに興味がなかった坂本は聞き流していたが、クラスの連中は思いのほかAくんの話に食いついた。
話は盛り上がりに盛り上がり、ついにはクラスの有志数名で「次の休みに、その廃墟へ肝試しに行くぞ!」と騒ぎ始めてしまったのだ。
当然、言い出しっぺのAくんも案内役として誘われたが、彼は「もう怖い思いをするのはうんざりだ!」と頑なに拒否。
結局、Aくんから詳しい場所や「霊が出る奥の部屋」の話を聞き出し、他の男子数名だけで週末に肝試しへ行くことが決定した。
青ざめた顔の告白
肝試し決行の前日である、金曜日の放課後。
帰宅しようとしていた坂本は、Aくんに呼び止められた。
「坂本くん、ちょっと話があるんだけど……ここではちょっと……」
妙におどおどしたAくんの態度が気になり、2人は帰り道にある公園で話をすることになった。
「で? どうしたんだよ。明日の肝試しのことか? バカらしいよな、出なかったら時間のムダだし、出たら出たで危ないのに」
坂本がそう言うと、思いつめた顔をしたAくんが、震える声でボソボソと口を開いた。
「……嘘だったんだよ」
「えっ、なに?」
「俺、廃墟の肝試しに行っただなんて……全部、俺の嘘だったんだよ」
嘘をついた理由と「唯一の解決策」
「なるほどな。Aくんは何でそんな嘘をついたのか、何となくわかるよ」
怖い話というのは「非日常の出来事」だ。人間の好奇心を強烈に刺激する。
つまり、怖い話を披露すれば、一時的にせよ「クラスの人気者」になれるのだ。林間学校の夜に、怪談が上手いヤツがチヤホヤされるのと同じ原理である。
しかし、Aくんは致命的なミスを犯していた。
「ネットで見た話なんだけど」という前置きをせず、「自分の体験談」として語ってしまったことだ。
もし明日、クラスメイトが廃墟に行き「幽霊なんていなかったぞ!」となれば、Aくんは卒業まで「嘘つき扱い」される。それを恐れて、坂本に泣きついてきたのだ。
「どうしようもないから、月曜日に正直に話して謝れってアドバイスするしかなかったよ。人の目を引きたかったって、先手必勝で告白して謝るのが唯一の解決策だったんだ」
腹を括ったAくんは、不安と恐怖の中で土日を過ごすこととなった。
週明けの恐怖、彼らが視たモノ
そして、Aくんにとって地獄のような月曜日がやってきた。
どんなに責め立てられるのだろうとハラハラしながら教室のドアを開けると、週末に肝試しに参加したメンバーがAくんに気づき、声を上げた。
「あっ、A! お前……」
(ヤバい、怒られる!)
思わず身構えるAくん。
しかし、クラスメイトの口から飛び出したのは、予想を裏切る言葉だった。
「お前、すげーな! よくあんな不気味なとこに1人で行けたよな!!」
怒号ではなく、なぜか絶賛の嵐だった。
訳が分からず狼狽えるAくんに、メンバーの1人が興奮気味にまくし立てる。
「お前が言ってた『1番奥の部屋』にさ、変な影が視えたんだよ! シルエットがどう見ても女でさ、全員で急いで逃げてきたんだ!」
「あれ、絶対お前が視た『女の霊』だよな! マジで怖かった!」
恐怖体験を嬉々として語る彼らを見て、Aくんは顔を真っ青にして叫んだ。
「そんなはずない!」
突然の絶叫に、教室は静まり返った。
静寂に包まれた中、Aくんは震えながら真実を告げた。
「みんな、ごめん……! 俺、普段は目立たないから、みんなの気を引きたくて嘘をついたんだ。肝試しに行ったのも、そこで女の霊を視たっていうのも、全部作り話だ……!」
さらにAくんは、決定的な一言を放った。
「だから、みんなが女の霊を視たって、そんなはずないんだ! 『奥の部屋』っていうのも、『女の霊』っていう設定も……全部、俺の頭の中の作り話だったんだよ!!」
その言葉の意味を理解した瞬間。
話の不整合性に気づいた女子が、ヒッ、と悲鳴のような声を上げた。
「じゃ、じゃあ俺達……ホントは『いるはずのない霊』を視たってこと……?」
嘘から出た実か、言霊か
「実際に霊が出たって衝撃的な事実のおかげで、Aくんは嘘つきにはならなかった。代わりに『あいつ、予知能力があるんじゃないか?』って変な噂が少しの間流行ったよ」
坂本は低い声で笑って話を締めくくったが、もちろん笑える話ではない。
日本には『噓から出た実(まこと)』という諺がある。
また、オカルト界隈では、人間の強い想像力や言葉が実体を持ってしまう「タルパ」や「言霊信仰」という概念が存在する。
Aくんが本当に予知能力を持っていたのか。
たまたま、あの廃墟に別の女性の霊がいたのか。
それとも、Aくんの「嘘の怪談」を聞いた何かが、その設定通りに廃墟の奥の部屋で待っていてくれたのか。
真実は闇の中である。
言葉には、時に強い力が宿る。
どうか読者の皆様も、普段話す言葉には、そして「作り話」には、くれぐれも気を付けてほしい。


コメント