【怖い話7】心霊スポットに行けない

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怖い話 心霊スポット 視世 心霊系の怖い話

※ 廃墟への不法侵入や肝試しを助長する意図はありません。場合によっては犯罪行為となるので、絶対にやめましょう。

知る人ぞ知る心霊スポット

坂本
坂本

1回だけ心霊スポットを探し回ったことがある。

 坂本がそう呟いたのはいつの日だったろうか。詳しい日付こそ覚えてないが、信じがたい話だったので内容はしっかり覚えている。

 身に宿した霊感が強すぎるが故に、様々な苦労を強いられた坂本は肝試し反対派だ。自発的に心霊スポットに行くことはなく、先輩に無理矢理連れていかれたり仲間内のノリに水をさすのが嫌で渋々参加したりと、彼が心霊スポットに行く場合は必ず外発的な要因が絡んでいた。

 そういった事情を熟知している私は、ついぽつりと漏らした。

視世陽木
視世陽木

お前が自発的に心霊スポットを探し回るなんて珍しいな。

 すると彼はポリポリと頭を掻きながら言った。

坂本
坂本

結局行けなかったんだけどな。

視世陽木
視世陽木

行けなかった? いざ行くってなった時に中止になったとか?

坂本
坂本

いや、違うんだ。見つからなかったんだよ、心霊スポットって言われているその場所が。

 珍しい話ではない。有名な心霊スポットであれば、先駆者が住所を記していたり写真を上げていたりと、大まかな場所が判明している。しかしマイナーな心霊スポットはそうはいかず、「何処何処にあるらしい」「何々の近くらしい」など、情報が曖昧で場所が特定されていないことが多い。

視世陽木
視世陽木

どこに行くつもりだったの?

坂本
坂本

人形の館って呼ばれてるとこ。

視世陽木
視世陽木

なんか聞いたことあるな。

坂本
坂本

さすがオカルトマニアだな。ちょっとだけ聞き込みしてみたけど、俺らの年代で知ってる人はほとんどいなかったよ。

視世陽木
視世陽木

確か母親から聞いた気がするんだよな

坂本
坂本

そうなんだよ。人形の館については調べても出てこなくて、ある一定の年代以上の人だけ知ってる心霊スポットみたいなんだ。

視世陽木
視世陽木

眉唾もんの話なんじゃねーの? ある一定の年代の人が子どもの頃に流行った、根も葉もない作り話とか。

坂本
坂本

俺もそう思ったんだけどさ、調べていくうちに会うことができたんだよ。

視世陽木
視世陽木

そのバイタリティーをもっと別のとこに生かせよ!

 あきれながら突っ込むと、彼は愉快そうに笑った。

視世陽木
視世陽木

で? 誰に会えたんだよ?

 この後すぐ、軽々しく聞いてしまったことを後悔する。

坂本
坂本

実際に人形の館に行ったことがある人。

出逢ってしまった2人

視世陽木
視世陽木

実際に行ったことある人に!?

 今でも疑問に思うが、どのようにしてその人に辿り着いたのだろうか? 彼の努力の方が怖い。

坂本
坂本

××山のどこかにあるって噂だけは情報があったから、その辺を徹底的に探したんだけど見つからなかったんだ。

視世陽木
視世陽木

あの辺はホテルは多いけど民家は少ないからな。

坂本
坂本

そうなんだよ。必死こいて探しても見つからないから、噂の方から切り込むことにしたんだ。

視世陽木
視世陽木

で? どうやってその人に辿り着いたんだ?

坂本
坂本

それは秘密だ。

 どうせ褒められたやり方じゃないだろう。知らぬが仏だ。

坂本
坂本

何人か直接話を聞けたけど、共通してたのは「××山のどこか」ってことだけ。その人達も、噂は知ってるけど行ったことはない・行けなかったって感じの話し方だった。

視世陽木
視世陽木

知ってる世代の人でも曖昧なんだな。

坂本
坂本

聞き込みしてるうちに、とうとう「俺の知り合いが行ったらしい」っていう人に会えてさ。その人に紹介してもらって話を聞きに行ったってわけよ。

視世陽木
視世陽木

噂の出処を1人ずつ辿ったのか。すげーな、お前……。

 もう1度言おう。そのバイタリティーを他のことに生かせ!!

坂本
坂本

そしてついに実際に行ったって人に会うことができた。

高鳴る鼓動

Bさん
Bさん

君ぐらいの歳の子が人形の館を知ってるなんてなぁ……

 B(仮名)と名乗った初老の男性は苦笑いしていたらしい。このBさんこそが過去に人形の館に実際に行った人物だという。

 一聴すればありふれた都市伝説なのに、見ず知らずの学生がわざわざ噂を辿って自宅までやってきたのだから、Bさんが苦笑いするのも仕方ない。

Bさん
Bさん

私も君ぐらいの歳の頃は好奇心旺盛でね。人形の館の噂話を聞いて同じように探し回ったんだよ。

 類は友を呼ぶとはこのことだ。

Bさん
Bさん

肝試し感覚で友人数人と探したが、全然見つからなかった。日を改め場所を改め、何度も何度も探し回ったが一向に見つからなかったんだ。

 坂本と違い、小規模ながら人海戦術を駆使したにも関わらず見つけることができなかったという。意地でも見つけ出してやろうと最初は乗り気だった友人達も、あまりの手ごたえのなさに1人また1人と減っていった。

Bさん
Bさん

とうとう私ともう1人だけになってしまった。私達も探し疲れてたから、もう1回だけ探してみて、見つからなかったら諦めようって話になった。

 いよいよ最終決行の日となったのだが、最後の有志から「都合が悪くなって行けなくなった」という連絡が入ってしまう。別日に改めようとも考えたが、すでに探求心は底をついており、延期するとそのまま中止にしてしまいそうな気がしたため、気を奮い立たせて1人で探索することに決めたのだった。

Bさん
Bさん

と言っても私の熱も冷めてしまってたからね。少しだけ探して帰ろうと思ってたんだよ。

坂本
坂本

思っていた?

 坂本が聞き返すと、揚げ足を取られたという感じでBさんは苦笑した。

Bさん
Bさん

怪談話にありがちな雨の日でも霧の日でもなかったけど、その日は見つかったんだよ。

謎すぎる結末

坂本
坂本

どんな場所だったんですか?

 興奮して尋ねる坂本。どうやっても自分は辿り着けなかった未知な場所に、これ以上なく好奇心が刺激されたのだろう。

Bさん
Bさん

見た目は2階建ての普通の家だったよ。レンガ造りだった。

 そこは以前探したはずの場所だったという。小規模ながらも人海戦術を駆使していたので、その日のように1人でさくっと探せる範囲は徹底的に探索されたはずだった。

Bさん
Bさん

だけどね、やっぱり普通の家じゃなかったんだ。

坂本
坂本

誰かいたんですか? 俺が聞いた噂だと、半狂乱の女性が閉じ込められてるとか、人間嫌いの人形職人が住んでるって話だったんですけど。

Bさん
Bさん

誰かいたかどうかはわからない。

坂本
坂本

わからない?

Bさん
Bさん

ああ、わからなかった。なぜなら、その家の1番普通じゃないところはね、入口がなかったことなんだ。

坂本
坂本

入口がなかった!?

Bさん
Bさん

ドアがね、どこにもなかったんだよ。家の周りを何周もしてみたけど、玄関も勝手口もなかった。窓はあるだけど、入口という入口が1つもなかったんだよ。

 このBさんの発言を坂本から聞いた時、都市伝説の “禁后” に似ていると思った。建物があるのに、なぜ入口がないのだろうか?

坂本
坂本

溶接されてたとか塗り潰されてたとかではなく?

Bさん
Bさん

違う、そもそも入口が存在してない感じだったんだよ。

 入口がない奇妙な建物なんて、誰が何のために建設したのだろう。

Bさん
Bさん

2階に出窓のある部屋があってね。

 出窓を見上げていると、やはりしっかりした洋館造りだったらしい。

Bさん
Bさん

出窓の奥にはたくさんの人形が並んでいて、外を見下ろすように並べられてたんだ。

 入口のないレンガ調の建物の2階、出窓の向こうからこちらを見下ろす人形達。その光景を想像したとき、さすがの坂本もゾクッとしたという。

Bさん
Bさん

人形が動いたり人影があったりしたわけじゃない。でもまるで異空間のようで、どこか危険な雰囲気があったんだ。

 胸が締め付けられるような圧迫感を感じ、精神的に耐えられなくなったBさんは知らず知らず駆け出していた。来た道を無我夢中で走り、転んでは立ち上がって走り続け、ようやく大通りに出た。

Bさん
Bさん

信じられないかもしれないけど、大通りに出るまでの道中の記憶は朧気なんだよ。

坂本
坂本

まるで建物までの道のりを覚えさせないかのようですね。

Bさん
Bさん

私も同じことを考えたよ。今まで必死に探して見つからなかった場所が何かの拍子で見つかってしまった。その来訪者の記憶を混濁させるかのようでね。

確かにそこにいた

 話はそこで終わりではなかった。

Bさん
Bさん

大通りに出て正気に戻った私は、なぜか通行人にジロジロ見られてた。

坂本
坂本

転んでケガでもしてたんですか?

Bさん
Bさん

私もそう思ったんだけど、ふと視線を落として戦慄したよ。

 もう何十年も経っているだろうに、Bさんは声を震わせ顔を青くし鳥肌まで立てていたという。

Bさん
Bさん

人形をね……、これくらいの人形をね、抱きかかえていたんだよ。

 これくらいと手で示されたのは50cmぐらいの大きさで、人形の中では大きい部類に入るだろう。

Bさん
Bさん

人形には詳しくないが、古びたフランス人形みたいだった。それをね、知らないうちに抱きかかえてたんだよ……

 乾いた声で笑いながらも、カタカタと小刻みに震えるBさん。しばらくして落ち着きを取り戻すと、静かながらもしっかりとした声で、忠告するように言った。

Bさん
Bさん

ボケた老人の戯言だと聞き流してくれないか? どうせあそこには二度と誰も辿り着けないだろうからね。

 まだ少し震えている手で湯呑みを取り、喉を潤して続ける。

Bさん
Bさん

私以外にあそこに行った者がいるかわからないけど、時の流れに任せて噂話として廃れさせた方がいいと思うんだ。

 話の終わりを感じ取った坂本は、出されていたお茶を飲み干しお礼を言って立ち上がった。

 和室の障子戸を開け、振り返らずに言う。

坂本
坂本

俺は信じますよ。

Bさん
Bさん

えっ?

坂本
坂本

だって、いるんですよね? 後ろの押し入れの中に

 ピシャリと障子戸を閉め廊下を歩きだす坂本の耳に、ガシャンと湯呑みが割れる音が聞えた。

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コメント

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