表と裏
人間の不安定さをまざまざと感じさせられた出来事だったため、ぜひ書いておこう思ったかなり短い怖い話。
学生の頃、親戚に頼まれて祭りの手伝いをしたことがあった。1週間ほど町に滞在し、地域の人に混ざって準備を進めた。私の手が必要なのは準備まで、祭りの当日は大いに楽しんでいいとのことだったので、祭りの前日にゆっくりできそうな穴場スポットを探した。
神社が会場となるその祭りは、ささやかではあるが参道脇に出店も並ぶ。当日は地域のほとんどの人が集まるということだったので、人混みが苦手な私は穴場スポット確保に勤しみ、ついに神社の裏手に良さげな休憩スポットを見つけた。
少し大きめの、1人腰かけるには十分な大きさの石があった。本殿の裏手で少し雑草が目立つ暗い場所だったので、まず他の人は来ないだろうと予想。石のすぐ後ろに寄りかかれる太めの木があるのもよかった。
いざ祭りの当日、出店にて飲食物を確保した私は昨日見つけた穴場スポットへ向かう。神樂の時間まではゆっくりするつもりだった。
しかし本殿裏に着いた私の目に、恐るべきものが飛び込んできた。
藁人形……
これから座ろうとしていた石の後ろ、太い木に藁人形が打ち付けられていたのだ。
怖くなった私は、すぐさま人がいる場所まで逃げ出た。表には祭りにやってきた多くの人の姿があり、誰もが皆一様に楽し気な顔をしていたので心が落ち着いた。
しかし同時に気づいたことがある。誰もが楽しんでいると思える祭りの華やかさの裏で、藁人形を打ち付けたくなるような、ドス黒い負の感情が渦巻いているという事実。
祭り前日の夕方、私がその場所を見つけた時にはもちろん藁人形なんてなかった。ということは、祭りの準備が終わり「さぁ明日は本番だ!」という盛り上がりの後で、夜に藁人形を打った人間がいるということだ。
神社の本殿、その正面には華やかな光と共に楽し気な光景が溢れている。しかしその裏には、憎悪などの毒々しい感情が藁人形という形になり、無残に打ち付けられていた。
あの藁人形にはどういう呪詛が込められたのだろうか。次の日が祭りだとわかっていたであろうその人は、どういう心境で術に及んだのだろうか。
月並みなまとめになってしまうが、本当に恐ろしいのは人間である。
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